「ど、どどどどうしよう!」
空ちゃん遅いなー、そうだ! 迎えに行こう!
って思って部屋に行ったら、ちょうど空ちゃんが窓から身を投げようとしているところだった。
「ダメッ……!」
早まらないで……!
お腹のところをぎゅっと抱きしめて、精いっぱい部屋の中に引き入れた。
「ぁ……」
空ちゃんがもらしたその声はすっごく小さかったけど、絶望って言葉がピッタリだった。
「空ちゃん、空ちゃん! しっかり!」
あたしが声をかけても焦点の合わない目でなにもない所を見つめていた空ちゃんは、なにかを思い出したかのように立ち上がって部屋を出ていった。
空ちゃん迎えに行くだけだしって一人で来たから、状況が全然理解できない。
で、冒頭に戻る。
どうしよう、どうしようっていうあたしの声で、隣の部屋の子がたまちゃんを呼んできてくれた。
あ、たまちゃんっていうのは月乃たまこちゃんのことね。
「た、たまちゃぁぁ……! 空ちゃんがぁ、空ちゃんがおかしくなっちゃったぁぁぁ!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて……。いたっ、いたた……ちょっと!」
「あだっ!」
たまちゃんにチョップされた……。
「自分の力を考えなさいよ! 肩折れるかと思ったじゃない! 全く……ゴリラなんだから」
ご、ごめぇん……。
「それで、空ちゃんがどうしたって?」
「あのねあのね、空ちゃん遅いなーって迎えに来たら、空ちゃんが窓から飛び降りようとしてたの! あたしが間に合ったから落ちてはいないんだけど、そのあと怖い顔してどっかに行っちゃって……」
「体力オバケなのに追いかけなかったの!? 今使わずにいつ使うのその足!」
うう……あたしも混乱してたんだよぉ……。
「とにかく! そこの三人に話聞いといて! 私は空ちゃん探しとくから!」
わ、わかりましたぁ!
えーっと……「メイは悪くない」って言ってる子と、なぐさめようとしてる子が二人。
どっちから話聞けばいいんだろ?
もともとこの人たちとのトラブルで、空ちゃんは病欠で一人余裕があったあたしたちの班に来ることになった。
決めつけはよくないけど、今回ばかりはこの三人のせいだろうなぁ……。
「空ちゃんになにしたの?」
「っ……メイは悪くないわよ!」
「そ、そうよ!」
「芽依ちゃんを疑うなんてひどい!」
いや、“メイちゃん”以外も疑ってるからね。
「とにかく、早く答えて。あたしの大親友が窓から飛び降りたのはなんで」
うーん……答えてくれないなぁ……。
バキッ……
「あ、やっちゃった」
窓閉めようとしただけなのに。カギ壊しちゃった。
あーん、力の制御、間違えちゃった……。
またお姉ちゃんに怒られるぅ……。
でも、この三人が早く答えてたらカギは壊れなかったんだから。あたしだけのせいじゃないよね!
あとで言い訳しとこ!
「ね? 答えて?」
「ぁ……あんな汚い布切れ後生大事に持ってる方が悪いのよ! さっさと出てって!」
ぽいと廊下に出された。
汚い布切れ……はて。そんなもの空ちゃん持ってたかな。
たまちゃんに聞いてみよ。
「たまちゃぁぁぁん! どこぉぉぉぉ!」
「月乃ちゃんなら、さっき食堂の方行ってたよ」
大声で叫ぶと親切な生徒が教えてくれた。
あたしは元々こういう子って知れ渡ってるから、突然大きな声出しても誰もなにも言ってこないんだよねー。
外部入試組はビックリしてるけど。
「食堂ね! ありがとう!」
教えてくれた子に手を振ってから階段を三段飛ばしでかけ下りて、食堂に向かった。
「月乃ちゃん? さっき入れ違いで入ってったよ」
「たまちゃんなら話聞くって言ってあっちの部屋行ったよ」
と、親切な子をつかまえてはたまちゃんを探し、ヘトヘトになったころに合流できた。
「もう聞けたの?」
「うん。でもね、意味がわからなかったの」
「なんて言ってた?」
「えっとね、『あんな汚い布切れ後生大事に持ってる方が悪いのよ!』だって」
「汚い……布切れ……。まさか……!」
え、なにかあるの!? あたし全然わかんないんだけど!
「空ちゃんが持ってる布製品で、布切れってバカにされるサイズの物は一つしかないわよ」
「な、なに……?」
「宗介の作ったお守り」
その瞬間、あたしの中でプツンとなにかが切れた。
「許さない……」
あのお守りは、初心者の宗介くんが初めて授業以外で作ったって言ってた。
それをもらった空ちゃんはすごく嬉しそうで、あたしまで幸せになった。
それを……それを「汚い布切れ」なんて……!
「ただの予想よ。別の布製品の可能性もなくはないんだから。だけど」
だけど?
「空ちゃんがここで悠人に会いに来たのを見てる人がいる」
「悠人? 桐谷悠人くん?」
「そ。空ちゃんってまず宗介に相談しそうじゃない? 付き合ってるんだし」
うんうん。あたしもそう思う。
「だけど空ちゃんは悠人に助けを求めたらしいのよ。宗介に言えないようななにかが起こったってなると、お守り壊されたくらいしか思いつかないのよね」
絶対それだよ!
「じゃあ空ちゃんと悠人くん、今どこいるの?」
「大浴場の方に行ったって言ってたけど……なんの脈絡もなく女子を風呂に連れて行くような人じゃないからね……」
空ちゃんにそんなことするならあたしがボコボコにしてやるわ!
じゃあなんであっちに行ったんだろう? 大浴場の方って、大浴場以外なんにもなかったと思うけど……。
「私、一個だけ心当たりあるかも。去年、初等部でもA組はここで二泊三日のイングリッシュキャンプやったのよね。で、そこに悠人も来てた。大浴場の奥には確か、裏口があるの」
裏口!
「そっちには懐中電灯とか雨ガッパとか、もしものときに備えて色々あるみたい。目立ちにくいし、二人で探しに行ったのかも」
「大変! 空ちゃんたち探しに行かないと!」
「先生に報告するのが先。今は雷も鳴ってるから危険よ。雷当たったら、いくらゴリラでも死んじゃうんだからね」
ひぃ……! 死ぬのはやだ……!
「せ、先生のとこ行こう!」
「あっちに羽場先生いたから、行きましょ」
待っててね、空ちゃん。
あたしもすぐに向かうから。
だけど先生からOKはもらえなかった。
勝手に行くこともできるけど、あたしがそれでケガしたら空ちゃんが気にしちゃうと思うから大人しくしとこ。
あたしは空ちゃんの親友なんだから、信じて待つのも大事だよね!

