「牧野、ちょっと」
羽場先生からそう声をかけられたのは、夜ご飯を食べ終わってからしばらくして。
「俺荷物みてる」
「ありがとう、おねがい」
リュックを床に置いたまま小走りで羽場先生の方に向かうと、阿部さんとその班員の人がいた。
どうしたんだろう。
「牧野にはこっちの班に入ってもらう。部屋も移動だ」
「え!? で、でも……」
距離を置いたとしても、同じ学年だから永塚さんたちとは今後も関わる機会があるわけで……。
和解せずに終わっちゃったら次同じ班になっちゃったときにもっと悪いことが起きる気がする……。逆うらみが一番怖い……!
「校則では、トラブルになるからお金の貸し借りを違反としている。自販機のジュース奢るくらいならまだしも、人を脅して高額な料金を払わせるのは禁止だ。課題をやらせるのも禁止にしている。これらの校則違反をした場合、親への連絡と一週間の謹慎処分、反省文が下される」
謹慎処分!? そんなに重かったんだ……!
「大小問わず、あと一度問題を起こせば退学処分になる。親御さんに電話をかけたから、明日には三人とも帰宅だ。今後牧野をあの三人と同じ班に割り振ることはないし、同じ教室に割り振ることもない。時間割的にも鉢合わせる機会なんてないだろう」
そうなんだ……。わたしがもっと器用な子だったら永塚さんたちとも上手くやっていけたかもしれないのに……。
顔を合わせるのは怖いけど、自分とのトラブルで三人も退学の危機になっちゃうのは悔しい。
「空ちゃんはなんにも悪くないよ! 校則違反する方が悪いんだから!」
「そうだよ、牧野さんがそんな落ち込むことないよ」
「うんうん。大丈夫だよ」
「……! あ、ありがとう……」
永塚さんたちに対する怖いって感情でドキドキしていた心臓が、力強いみんなからの励ましで落ち着いていく。
「じゃあ……よろしくお願いします」
「うん! みんな、空ちゃんが来てくれたらテスト満点も夢じゃないよ! この前のテスト、学年四位だったんだから!」
「マジ!? すご!」
「A組って通常クラスよりテスト問題難しいって聞いたよ。それで四位って……」
「あたし、初等部のときから二十位くらい順位上がったんだよ! すごいでしょ!」
わたしが緊張しないように言ってくれてるんだろうな。優しくて、わたしの大好きで大切な友達。
阿部さんが友達になってくれたのは、わたしが経験したいくつもの幸福のうちの一つ。
阿部さんの友達として恥ずかしくないように、もっと堂々とした自分になりたい。こうやって場の空気を作って人の心を軽くできるような人に。
「あとこれ。日野と前田の分。永塚は小銭しか残ってなかったから親に事情を説明して明日持ってきてもらうことになってる」
「ありがとうございます」
渡された封筒には、領収書をもらえた食事代だけでなく、バス代と入園料までしっかり入っていた。
貴重品用のカバンにしまって、誰にも盗られないように。
それにしても、今回のおこづかい上限って、一万五千円だったよね。小銭しか残ってないって、永塚さんは一体どんな使い方したんだろう。
片上通りに行ってたみたいだし、なにか高級なお土産でも買ったのかな。
「それじゃ、空ちゃん。あたしたち部屋で待ってるから!」
「うん、荷物まとめたらすぐに行くね」
ぶんぶんと手を振って去って行く三人に、振り返す。こうしていると、心がぽかぽかしてくるな。
羽場先生もこれから夜ご飯ということで別れ、秦くんに事情を説明してわたしも先に戻ることにした。
あんまり遅いと心配した阿部さんが迎えに来ちゃうかもしれないからね。
部屋で永塚さんたちと鉢合わせちゃったら気まずいなぁ、なんて思ってたけど、永塚さんたちも夜ご飯行くように言ったみたいだから今部屋には誰もいないはず。
「ああ、被害者ぶりっ子の地味子じゃない」
「よくもノコノコ戻ってこれたわね」
「あんたのせいで私たち怒られたんだけど」
「しかも先生通してまで金せびってくるなんて信っじらんない!」
いない……はず……だったのに。
なんでいるの!?

