「お待たせ」
制服からジャージに着替えた秦くんがやってきたのは待ち始めてから十分後。
息は上がってないけど、大分急いでくれたんだよね……。
うう……ありがたい……。
「それで、相談っていうのは?」
「あのね……」
今のわたしなら、マシンガントーク日本一決定戦で優勝できそう。
そのくらいの勢いで今日あったこととを話した。
バスの運賃から始まり、ひまわり園の入園料に限定アイス代、果てはオプション盛り盛りの軽食代まで払わされたこと。
そしてわたしが全員分の風景画課題を描かないとカフェから出ない、と言われ、描きあげて戻ったら置いて行かれていたこと。
財布を忘れたと言っていたのに、わたし抜きの観光では自分たちのお金で楽しんでいたこと。
帰ってから絵と引き換えにお金を返してもらおうとしたら三人合わせて千円だけで絵を持っていかれ、レシートは破かれてしまったこと。
一応、逆ギレの予想はしていたから領収書はもらってあること。
「恐喝か……」
恐喝って確か……人をおどしてお金を奪う……みたいな意味だったよね。
そっか。「描き終わるまで帰らない」って言うのも、運転手さんに「この子が全部払います」って言うのも「財布忘れたから仕方ない」って言うのも、わたしの性格を利用したおどしって取れるよね。
実際わたしはお店とか学園に迷惑をかけるくらいならって払ったわけだし。
「お金がからんでくると、俺たちだけじゃ心もとないね……。明らかにやりすぎだし、羽場先生に連絡してもいいかな」
「うん」
わたしも先生に言おうと思ってたから。
秦くんの骨ばった指がスマホの画面を滑る。
「今先生にメッセージ送ったよ。あ、もう返事きた。すぐに戻るからここで待っててって」
ずっとはりついてたのかな。
あ! 永塚さんたち見つかったって送ってなかった! お、送らなきゃっ!
スマホを開くとメッセージが一件。
『合宿所待機組の先生に聞いたらもう帰ってるみたいだから安心して。』
わあぁぁぁ! 気づいてなかった!
「あ、あ……」
『ありがとうございます! 合流できました!』
「空? どうしたの?」
心の中で滝の冷や汗を流しながら送信ボタンを押したわたしを見て首を傾げる秦くん。
ごめんなさい羽場先生!
「すまんすまん、遅くなった」
メッセージが既読にならず、滝の冷や汗で池ができそうになっていたとき、ドアが開いて羽場先生が入ってきた。
「それで、二人してどうした? 班でなにか問題でもあったか?」
タオルで髪を拭きながらソファーにどかっと座った羽場先生に、顔合わせ以降に起きたことを全部話した。
さっきマシンガントークして満足したから、今度は感情的になることなく落ち着いて話せた。
「ったく……そういうのは、班が決まった時点で言ってよかったんだからな? まあでも、相談してくれてありがとう。あ、レシートの写真だけ撮らせて。高橋先生も呼んで、その三人の生徒と話してみるから二人は戻れ」
「「はい」」
これで永塚さんたちが反省してくれるといいんだけど……。
電話をかけはじめた羽場先生にぺこりと一礼をして、談話室を出た。
「もうすぐ夕飯だって。一緒に行こ」
「うん……!」
大食堂に向かう途中、放送で永塚さんたち三人が呼び出された。
すれ違ったときにすっごいにらまれたけど、わたしはなにも悪いことしてないって自信があったからうつむいたりはしなかった。
「空ちゃん! あたしとも一緒に食べよ!」
今日の夜ご飯はバイキング。
声をかけてくれた阿部さんは、お皿から落ちてしまいそうなくらい多種多様のおかずを盛っていた。
これ……多分おかわりもしてデザートも食べるよね……。
この量が小柄な女の子のどこに入っているのか。
すごく不思議。
「茜、ジャマしちゃ悪いでしょ。空ちゃんは宗介と一緒に食べるんだから」
「月乃さん……!」
阿部さんに言っているように聞こえるけど、わたしたちを見てパチリとウインクを決めた。
は、恥ずかしい……!
「空」
「う、うん!」
「夜ご飯の間だけ、空のこと独り占めしていいかな」
「…………うん……!」
顔が熱い……お湯沸きそう……。
「それじゃ、ごゆっくりー」
「ありがとう、たまこ」
「いえいえ」
月乃さんにお礼を言う秦くんの顔もうっすら赤くて、わたしはますます恥ずかしくなってしまった。
「あそこ、開いてる。行こ」
顔を隠すように口元に手を当てた秦くんが指差したのは、食堂のはじっこにある少人数席エリア。
「うん」
あそこなら顔赤くても目立たない。嬉しさでニヤニヤしちゃっても、はじっこを見にくる人なんていないからバレない。
秦くんにはバレちゃうけど……。知らない人に見られるよりはずっといいからね。
「先取ってきていいよ。荷物みてるから」
「いいの? ありがとう」
大きなリュックをイスの下に置いて、料理を取りに行く。せっかくなら普段食べないパンとか麺が食べたいな。
ということでわたしの取ったもの。
ざる蕎麦と季節野菜の天ぷら、デザートに杏仁豆腐。飲み物はキンキンに冷やされた麦茶。
うーん……。蕎麦取ったらパン取れなかったな。まあいっか。蕎麦も普段食べたりしないし。
秦くんが持ってきたのは、サラダと豚天、白米、ワカメたっぷりのお味噌汁とフルーツ盛り。飲み物は緑茶。
「それじゃ、事態の好転を祈って乾杯」
「乾杯」
グラスと湯のみがカンとぶつかる。
本当に、少しでもいいから、悪い方向には行ってほしくないな。
にらまれたのを思い出してわき上がってくる不安は、麦茶と一緒に流しこんだ。

