恋愛初心者②〜強化合宿で事件発生!?〜


 意図的に班員と離れるのはルール違反。

 だけど三人にはもう動く気がないから、ここで時間を溶かしちゃうのはもったいない。時間はもうすぐ十一時。画用紙は四枚。一枚一時間で描いてもギリギリ雨が降る前にひまわり園を出られるかもってくらい。



 仕方がないから三人分の水筒と折りたたみ傘をカフェテーブルの上に置いて、風景画を描きに向かった。

 せっかく描くならやっぱりひまわりだよね。わたしは黄色い花が大好きだけど、その中でもひまわりが特に好き。今見てみると秦くんの好きな茶色も入ってて、もっと好きになっちゃった。



 リュックサックから首かけイーゼルを出して画用紙を固定。鉛筆片手に大型花壇の近くにあるベンチに座った。

 ここからなら一斉にこっちを向いているひまわりがよく見える。

 どこを描こうかな……あ、ここにしよう。

 フラワーアーチの向こうにあるカフェと、別のエリアに続く道がちょうどきれいに入る。

 さかさかと鉛筆を動かしていると、現実で起きてるイヤなことなんて忘れちゃうな。



「空ちゃん」
 夢中で絵を描いていたわたしは、自分の名前を呼ぶ声で現実に戻ってきた。


「月乃さん」
 班の人と一緒で、入り口のお店で売っていたアイスと首かけイーゼルを持っている。これから課題かな。


「上手だね。写真みたい」
「あ、ありがとう……」
 やった!

 月乃さんの班員のみんなにも、「上手だよ」って言ってもらえた。





 きゅるきゅるきゅる……

 穴があったら入りたい。

 なくても掘って入りたい気分。
 こんな人前でお腹鳴っちゃうなんて!


「空ちゃんお昼まだなの?」
「うん……今お金なくて……」

 わたしが払う前提でお買い物するだろうなって思ったら怖くて使えない。

 し、四人分の絵を描かないと帰れないからお昼ご飯を食べる時間なんてないんだよね。


「私なんか買ってこようか?」
「ううん、平気だよ。水筒は持ってるから」

 お茶でなんとかごまかして、夜ご飯のバイキングでたくさん食べよう。


「お腹空いてるのお水でごまかさない方がいいと思うけど……。あ、これあげる。個包装だったからお土産屋さんで買ったんだけど、六個入りだからみんなで食べても余っちゃって。よかったら食べて」


 そう言った月乃さんに渡されたのは、ひまわり園限定のクッキー。ここのひまわりで作られたハチミツが使われてるんだって。

「いいの? ありがとう!」
 優しさが沁みる……!


「ね、私たちも一緒に描いていい? ちょうどこの辺で描こうって話してたとこなんだ」
「もちろんいいよ」
 ベンチの横に置いていたバッグを足の間に移動させて、隣に座れるようにする。

 すとんと腰を下ろした月乃さんはスマホの写真フォルダを見ながら「どれにしようかな〜」と更に隣に座った友達と話してる。


 近くの空いてるベンチに座ったあとの二人はもともとひまわりが描きたかったみたい。さっそく描き始めてる。

 わたしもあと三枚……描かなきゃな……。


 一番最初の画用紙の裏に、ボールペンで自分の名前を書く。まだ一枚目だけど、きっと一番いい出来だから。これくらいの抵抗はさせてよね。

 今は一時過ぎ。急がなきゃ。



「あれ、納得いかなかったの?」
 わたしがさっきと全く同じ構図で描き始めたのを見て、月乃さんが手を止める。

「んー……。そんなところかなぁ」
 友達にウソついちゃうのはイヤだけど、いつ雨が降り出してもおかしくない空模様だから本当のことは先生たちに相談してから話そう。







 
 ポタリ

 「描き終わったしそろそろ行こー」っと言った月乃さんの班と別れ、最後の一枚のぼかしを入れる段階まできたとき、首かけイーゼルに水滴が落ちた。


 ここまで描いたのにびしょびしょにしたくない!
 急いでイーゼルを逆さまにし、雨対策で持ってきたビニール袋にバッグを入れる。その瞬間、滝のような大雨が降り出した。

 ふう……なんとかセーフ。

 って、そんなこと言ってる場合じゃない! 急いで屋根のあるとこに行かないと!

 ここから一番近いのは、永塚さんたちがいるカフェ。


 身を小さくして荷物を抱え、カフェに入るとなんとびっくり。



「いない……?」

 そう、永塚さんたち三人がどこにもいない。荷物もない。

 い、今何時!? よかったまだ四時。


「あの、すみません」
「はい」

「十一時ごろにわたしと同じ制服を着た女の子三人組があそこのテーブルにいたと思うのですが、どこに行ったかわかりますか?」
 仕方なく、近くにいた店員さんに聞いてみた。

 今日は雨予報だったってこともあって、お客さんはほぼいない。


 わたしが聞いた店員さんは心当たりがなかったみたいだけど、「他のスタッフに聞いてまいります」と笑顔で言ってくれた。
 数分後、わたしの前にやってきたのはお会計を担当してくれた女性の店員さん。


「ほかのお客様のご迷惑となる振る舞いが目についたので声のトーンを落としていただきたいと伝えたところ、出て行ってしまわれました。時間は……確かお昼過ぎだったかと」
 そんな……!

「も、申し訳ございません、迷惑をおかけしてしまって……」
 こんな珍しい制服、すぐ学校名特定されちゃうのに!


 地面にたたきつける勢いで頭を下げると、小さな封筒を渡された。
「店長です。先生になにか言われて困ったことになったら、これを見せるといいですよ」

 店長さんは大男って言葉が似合うくらいの体格だったけど、わたしに向ける眼差しは優しくて温かい。


「これは……?」
「第三者から貴女は悪くないと伝えれば、先生も責めにくいと思いますから」
「あんな人たちに負けないでください!」


 会ったばかりの人がこんなにもわたしを気づかってくれている。
 それがすごく嬉しかった。


「はい! 先生に言ってやります!」

 手をギュッと握りしめて笑顔で伝えると、「がんばってください!」と応援してもらった。

 一応、迷子センターで三人を呼び出してもらったけど、待てど暮らせど反応はなく。


 生徒用アプリを開いても、メールボックスに通知はなし。はぐれたら先生に言わなきゃいけないけど、永塚さんたちは言わなかったんだろうな……。


 羽場先生にはメッセージ送っておこう。

『用事を済ませて集合場所に戻ったら、班員がいなくなっていました。問い合わせても反応がありません。今から合宿所に戻ります。』
 っと。


 これでよし。
 数分後、バスを待っている間に返信が来た。自分は見てないからって他の先生に連絡取ってくれたみたい。気をつけて、だって。


 これで心置きなく帰れるね。