恋愛初心者②〜強化合宿で事件発生!?〜


「本日は班ごとに分かれて自由に観光してください。風景画の指定画材は鉛筆なので、その場で描いても写真を撮って後から描いても結構です。合宿中か、始業式の日に提出となります。迷子になった場合は学年メールで共有した場所に教師がいますので速やかに連絡をしてください」


 二日間の授業を終えて、今日は一番緊張している観光。天気予報を見た感じ、夕方の四時くらいから雨になるみたい。

 夜には雷雨の予想も出てるから、三時半前には合宿所に着くように回ろう。
 場合によっては、行けない場所も出てくるとは思うけど……台風だったら仕方ないよね。



 ちらりと横を見ると、別の班の人たちが楽しそうに柳沢市の観光パンフレットを広げていた。

 対してこちらは……。
 制服にスマホという軽装の永塚さんたち三人と、断りきれずに全員分の画用紙と鉛筆、水筒に折りたたみ傘までカバンに入れたいつも通りのわたし。

 わたしがはぐれたら水も課題もなくなっちゃう。そう言ったんだけど、「荷物持ちできないならメイたちについてこないで」って言われちゃって。


 観光は班ごとだから、意図的に班メンバーと離れるのはルール違反。

 この合宿の目的の一つはクラスの人以外とも交流することだからね。
 四人分の水は結構重いけど、これも勉強だと思うしかないかなぁ……。社会に出たらもっとイヤなこととかあるだろうし……。


 いっそ筋トレだって思っちゃおう。お兄ちゃんみたいに力持ちにはなれないけど、わたしだって重たい物一人で運べるようになりたいもん。

 見方を変えたら、この水筒もただの重しに思えてきた。言い聞かせてる感がすごいけど、それでメンタルが守られるならいいよね。



 バスの時刻表を見ると、十時代の便はあと十分くらいで停留所に着くみたい。

 合宿所からちょっと歩くし、早めに移動した方がいいな。他の班はまだルート変更中みたいだし。
 ひまわり園に行けたらおしゃれなカフェも日陰つきのベンチもある。

 片上通りと旧松林邸は、時間的に諦めなきゃかな……。



 地図係はわたしだから、さすがの永塚さんも真っ直ぐバス停に向かったわたしになにか言ったりはしなかった。

 というか、ひまわり園内のカフェ情報を見てて、わたしのことは眼中にない。それが一番楽だしありがたい。ただ、制服着てるからバスの中では声のトーン落としてほしいけどね。


 バス停で少し待つと、すぐに来た。市内循環バスでそんなに大きいわけじゃなかったけど、人はほとんど乗ってない。

 ICカードを読み取り機にタッチして、椅子に座った。みんなタッチしてなかったけど、現金派なのかな。


 そこから緩やかな坂道をひたすら上り下りすること十五分。

『次は、ひまわり園中央入り口前、ひまわり園中央口前でございます』
 あ、ここだ。


 ひまわり園は中央口、西口、北口、東口って四つの入り口があって、中央口はカフェが集中して建ってるエリアに一番近いんだ。永塚さんたちから聞こえてくる店名も、ここのエリアに入ってたはず。

 降車ボタンを押してしばらくすると、ひまわり園前のバス停に止まる。


 ここまでは予定通りだったんだけど……。

「お客さん、運賃後払いですよ。二百五十円」
「ああ、あの子が払います。四人分」

 運転手さんの横を素通りしてそう、当然のようにわたしを指差したのは永塚さん。他の二人、日野さんと前田さんも疑問に思ってないみたい。
 現金者用の乗車券を手渡してきた。


 わたしは全員分の運賃を払う予定なんてなかったからびっくり仰天。まさに青天の霹靂。

 だから乗るときにICカードタッチしてなかったんだ……。


 このままではバスの正常運転をジャマしちゃうので、泣く泣く払う。



 うう、わたしの千円……。

 ご飯代は、出してくれるよね……? さすがに全員から奢ってって言われたらなにも買えなくなっちゃう。

 だけど、三人のお嬢様ごっこはエスカレートするばかりだった。


 行きのバスで千円、入園料二百円×四人分で八百円、夏が旬のマンゴーを使ったアイスクリーム六百五十円×三人分で約二千円。もう四千円近くになる。

 コツコツ貯めてきたお年玉が……。こうなるってわかってたわけじゃないけど、上限マックスまで持ってくるんじゃなかった……。


 永塚さんたちは「部屋に財布忘れたんだから仕方ないじゃない」って言ってたけど、そんな大事なもの忘れたならもうちょっとしおらしくしてて!


 まあ……自動販売機でジュース買ってるの見ちゃってるからウソだってわかってるんだけどね。

 でも秀英学園以外で男女共通のセーラー服はほぼない。
 目立って学園に迷惑をかけるよりは、後から返してもらった方がまだいい。店員さんにお願いしてレシートとは別で、領収書も出してもらった。レシートが捨てられてもまだ領収書がある。


 バス代だけならまだしも、遊ぶための代金全部を払って返してもらえないのはお年玉をくれた家族と祖父母、初任給の一部をわたしの誕生日プレゼントに取っておいてくれた従姉にも申し訳ない。


 秦くんは先生を頼ることも考えようって言ってくれた。だから、わたしが頼んで返してもらえなかったら秦くんに相談してみよう。

 後が怖いけど、目先のお金が大事なときもある!




「じゃあ地味子、メイたちこのカフェで休憩してるから」
「えっと、どれくらいですか……?」

「は? あんたがメイたちの分の絵も描き終わるまでよ」


「…………え」

 なんでぇ!? わたしの絵の練習にはなるけど、三人は美術の成績つかないよ!?



「メイはリンゴジュースとパンケーキね。メニューと同じトッピングじゃなきゃイヤだから」
「じゃあうちもそれで」
「私のもパンケーキLにしといてよ。クリームはアイスに変更で」



 ああ……、また!

 わたしはメイドでもお財布でもないのに!

 なにがなんでもお金返してもらわないと。
 わたしは闘志をメラメラとさせ、店員さんから領収書をもらった。