「終業式の日の午後から強化合宿を行う」
担任の羽場先生から配られたプリントは二枚。
保護者向けのお知らせと、日程や時間割が書いてある生徒向けのもの。
「この合宿は学年内の交流も目的になっているから人数が少ないAクラス同士は原則相部屋、つまり同じ班にはならない。これを期に他クラスの生徒とも仲良くするように」
そっかぁ……知らない人と……。
緊張するけどがんばろう……!
「それじゃあ連絡あるやついるかー? いないな。じゃあまた明日。さようなら」
「「「ありがとうございました!」」」
プリントが折れないようにファイルにしまってと……。
「行こう、空ちゃん!」
カバンを閉じたところで阿部さんが呼びにきてくれた。
あ、阿部さんっていうのは阿部茜さんのこと。わたしとすっごく仲よくしてくれてる子で、信じられないくらい身体能力が高いんだよ。
「うん!」
今日から一週間、テスト直し期間に入って部活が休みになる。この期間で英字新聞の見出し一つ分くらいは理解できるようになりたいな。
今回のテスト直しメンバーは勉強会のときの五人。阿部さんとわたし、秦くん、あとは斎藤くんと神田くん。
もう集まろうって声かけなくても自然に集まるようになった。
秦宗介くんはこの間行った旅行でか、彼氏……になってくれた人……。
斎藤椋くんはわたしの友達でもあり、大好きな小説家さん。
神田晴人くんは小学校が一緒だった子。色々あったけど今は友達……かな?
図書室の横にある個室を秦くんが予約しておいてくれていたから、そこで勉強するんだ。
「まずは個人で間違えたところ直して、わからなかったら聞くってことでいい?」
「うん!」
「オレもそれでオッケー」
「ぼくも」
「わたしもいいよ」
借りてきた和英辞典と教科書の文法を見ながら、間違えちゃった部分を直していく。
「空ちゃん。なんでここで切れるの? 自立語じゃないの?」
「ああ、これはね――」
たまに教えながら。
「そろそろ下校時刻なるね。チャイム鳴る前にカギ返したいからそろそろ帰る準備しようか」
大体全員がテスト直し終わったくらいで最終下校時刻の十五分前になった。
英字新聞の方は、はしっこの小さなコラムだけは読めるようになったけど、秦くんがいないとなかなか理解できないな……。
「忘れ物大丈夫?」
「「「オッケー」」」
新聞は図書室かさっきまでいた個室でしか読めないからしっかり返却して。
秦くんから貰ったお守りもちゃんとカバンについてる。
秦くんもスラックスのポケットに手を当ててなにかを確認したあと個室のカギをしめた。
「宗介、ポケットになに入れてるの?」
「母親の形見。一回落としてから確認するようにしてる」
入学式のときに言ってた万年筆かな。
「へえ、大事にしてるんだ」
「晴人には見せない」
「オレが狙ってるのは宗介の物全部じゃないから。そんな警戒しないでよ」
あ、あはは……。秦くん、神田くんに振り回されてるなぁ。
「とにかく。俺はカギ返してくるから」
「わ、わたし、昇降口のところで待ってるね」
「うん。すぐに戻るよ」
神田くんたちが三人で帰ったので、わたしは昇降口から出てすぐのところで秦くんを待った。
「あんま調子のらないでよ、地味子のくせに」
え……?
聞こえてきたトゲのある声に周りを見回すけど、声が聞こえる距離にいた女の子のグループは楽しそうに話しながら素通りしていった。
聞き間違い……ではないよね……?
わたしの近くには誰もいなかったし……。
でも、全然面識ないはずなのになんでだろう。
「お待たせ、空。……なにかあった?」
「ううん、なにもないよ」
わたしに言われたとしても、誰かに言った陰口をたまたま聞いちゃっただけだとしても、実害がないなら今さわぐ必要ないかな。
せっかく秦くんと一緒に帰れるんだから。
「そう……? でも、なにかあったらすぐに言ってね。俺、絶対空の味方だから」
「うん。ありがとう」
でも、多分今回のはわたしの気のせいだと思うけどね。
全然見たことない子だったし、Aクラスの先輩たちにもいなかった。そもそも、赤いスカーフだから同学年。
これから高校までは一緒に行動する機会もあるだろうし、あんまり波風立てるべきじゃない。
だけど。
「なんでメイがあんたみたいな地味子とおんなじ班になってあげなきゃいけないわけ?」
気のせいじゃ、なかったみたい……。
学級会の時間はどのクラスも同じタイミングだから、班ごとに顔合わせってことになったんだけど……。
わたしを見て、きれいな顔をイヤそうにしかめたのはBクラスの永塚芽依さん。
それに伝染してか、永塚さん以外の二人からの視線もおだやかとは言えない。
「地味なあんたがメイたちと行動するなんて、少しはわきまえてほしいわね」
あんまり地味地味って強調されるとちょっと落ち込む……。
実際目立たない容姿だけどね。でも、秦くんと恋人同士になったから、言い訳しないで可愛くなる努力はしないと。
「あんたはメイたちの引き立て役だってこと、覚えておくことね」
「えぇ〜、こんな地味な子、引き立て役にすらなれないでしょ〜」
「それもそうね、ふふっ」
うう……刺さる……。アイドル並みに可愛い女の子から直接言われてるから特に……。
でも、終業式はもうすぐ。
付け焼き刃じゃカッコ悪いし、合宿は学校行事。
服装は学校指定のジャージで固定、危ないから装飾品は禁止。素顔をどれだけ磨いてきたかで変わってくるよね。
今のわたしが持ってないもの。
「コンサートに出ることになったら、音楽を知らない人は容姿から興味を持つ」って言ってスキンケアとか体作りにこだわってるお兄ちゃんがそれをわたしに伝授してくれてなかったら、もっとひどい言われようだったかもしれない。
今度お兄ちゃんの好きな牛丼作ってプレゼントしよう。
あまり席につける雰囲気ではないけど、他の人たちが座り始めてる中で一人立っているというのはすごく、すごく目立つ。
できるだけ永塚さんから離れた位置に座った。
永塚さんを立てて、自分はあくまで引き立て役。
そう振る舞えば、ある程度の平和は保たれる気がする。
……うん、気がする。わたしが無意識のうちにやらかしたりしなければ。
ほら、永塚さんもわたしへの興味は失せたみたい。友達と話しはじめてる。
ホンネを言うと不安しかないけど、強化合宿は六泊七日もあるんだ。できる限り、悪い方向にはいかないように気をつけなきゃ。

