「あの、えーっと」
「なんですか?───あぁ、名前言ってなかったし、呼びづらいですよね」
「それはどっちの……?」
自分自身の名前のことなのか、わんちゃんのことなのか。
わんちゃんの名前だったらさっき聞いて覚えてるんだけど。……記憶違いじゃなければ。
「ふっ、確かに今のじゃなよくわかんないですよね。じゃあ両方。こいつはポンで、俺は塔野 雨翔です」
悩んでいた私に、俳優みたいな完璧な笑顔で笑いかけてくれる。
ほんとに、完璧な笑顔で。
それにどきっとしつつも、私も自分の名前を口に出す。
「私は朝日 葵鈴です。えっと、塔野さん、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。ていうか、そんなに固くならなくてもいいですよ。たぶん年齢同じくらいでしょ?」
「いやいや、たふん塔野さんのほうが年上……」
高校2年生の私より、明らかに大人なオーラだもん。絶対に大学生とかでしょ……?
"同じくらい"の枠には入ったとしても、年上には変わりない。
敬語を使うのは当然だ。ていうか、初対面の人にばんばんタメ口使ってたらそれはそれでどうかと思うし。
「ワンワンッ」
「あっ、俺そろそろ家入んないといけないんでこの辺で」
「はい、助けていただいてありがとうございました」
「いえ。引っ越しできたばっかで知らないこと多いんですけど、また会う機会があったらいろいろ教えてください」
「もちろんです!…じゃあ、さようなら?」
「ふっ、なんで疑問系。…さようなら」
小さく手を振って、塔野さんに背を向ける。
7月の半ばに引っ越しって、変な時期に引っ越してきたんだな。いろいろ事情があったのかもしれない。
ポンちゃんと塔野さんを頭の中で考えつつ、私はまたSun Flowerへの道を歩きだした。



