「行ってきまーす」
真冬の冷たい空気の中を制服のスカートを翻しながら笑顔で家を出ていく。
「いってらっしゃーい」
そう言って我が子に手を振り見送る。
「さむっ」
震える身体を両手で擦りながら家に入った。
時計を見てひとつため息を付きながら仕事の準備を始める。
〜♪〜
「もしもし?あぁ、久しぶりじゃね!どーしたん?こんな朝早ーから⋯
⋯え⋯?」
朝から鳴り響いたスマホ。
それは、地元の友人からの電話だった。
昔の恋人、遠い遠い昔に
私が初めて愛した人の訃報だった。
「ほうね⋯うん、行くよ。ありがとう」
メイクをする手が止まる。
『準備せんと⋯、分かっとる⋯分かっとるけど⋯』
手が動かないんだ。
あれから22年。
もう、心の傷も後悔も癒えた
そう思ってた。
メイクブラシを置いて手にしたのはスマホだった。
「おはようございます。すみません。熱出してしまって、しばらくお休みを頂けないでしょうか?」
連絡したのは、会社。
夫に先立たれて9年。
一度だって休んだことがなかった会社を休んでしまった。
何もする気になれず、ただその場で座り込む。
ふっと、窓際に置いてある写真が目に入った。
まだ、小学生だった娘。
夏休みに地元へ帰った時にBBQした時の写真。
夫が亡くなる数日前に撮ったんだ。
当たり前だけど、昔のままの笑顔でこちらを見ている。
「あんたは、昔と変わらんね⋯
とも⋯よしが死んだんと⋯あんたと同じ事故⋯」
そう言った途端⋯涙が止まらなくなった。
目を閉じて、静かに泣続けた。
よしが、死んだから?
それとも、会社を休んだ罪悪感?
分からない⋯
分からないけど、涙が止まらなかった。
