その恋、賭けですよね? ~理性的なハイスペ後輩の仮面が剥がれたら、狼の執着と独占欲で朝まで抱き潰されそうです~【本編ざまぁ完結+恋人同士の焦れ焦れ 統合版】



 小洒落たバーの雰囲気に見合う大人の男女。

 そんな男女から白い視線を集める存在がいた。

「……やっぱりこうなったか……」

「うぅ……まだ、のめるぅからぁっ!」

 バカにすんなぁっ!とカウンターに突っ伏しながら管を巻くのは……拓矢だった。

「マスター、お冷やを……」

「みずゅ、なんかいらない!
 もっと飲めよ!
 おまえが、酔いつぶれたら……ホテルにっ、連れてくんだからよっ……!」

「……へえ?」

 サッサと酔い潰れろ!と叫ぶ拓矢に、周囲の人間達の視線が更に冷たくなる。

「……最初から、私を酔い潰すつもりだったんですか?」

「そうだよ……!
 さんかげつ、いないにぃ……お前とセックスしないとぉ……カケに負けるからっ……しょーがなく、だなぁっ!」

 カウンターの上に太めのペンのような物を然りげ無く置けば……小さなランプが点滅を開始した。

「私を好きと言ったのも……嘘、だったんですか……?」

「……そうだよっ!
 そうじゃなければっ!
 だぁれがオマエみたいなぁ……地味で、どーでもいいオンナのっ……あいて、なんかするかよぉ……」

「……黒木さん、貴方の気持ちはよくわかりました。」

 だから酔い潰れろ、と繰り返す拓矢を感情のない冷ややかな目で見詰める葵は、チラリと時計を確認する。

「黒木さん」

「んー……」

「貴方が私に言った絶対に後悔をさせないし、大切にするという言葉も全て嘘だった。」

「あったりまえじゃんっ!
 …………えっ、しんじちゃってたのー?」

 アルコールの影響で頭が回らない拓矢は、眠そうな小馬鹿にした口調で返事をする。

「……信じたかったですよ。」

 小さな声で答えた葵の言葉をかき消すように、バーの仕掛け時計の鐘が鳴る。

「シンデレラじゃないですが、鐘が鳴りましたね。
 ……約束の三ヶ月です。
 これで恋人ごっこは終わりだわ。」

 葵がカウンターから立つ音に重なって、ドアベルが鳴る。

「さようなら、黒木さん。
 今後は、業務以外のことで二度と話しかけないでください。」

 自分の荷物を回収した葵は感情の籠もらない声で別れを告げ、酔いが回って動けない拓矢に背を向けた。

「……ま、てよっ!」

「っ……!」

 背を向けて立ち去ろうとした葵の腕を、拓矢は勢いに任せて乱暴に掴んだ。

「うるっせぇ女だなっ!
 賭けが、あんだよっ……だまってホテルに行ってっ……ヤラせろよ……っ!」

「いたっ……やだ、離してっ……!」

 掴まれた腕の痛みに葵が顔を顰めて抵抗するが、拓矢の手を振り払えないことに危機感を覚える。

「さっさと来っ……」

「気安く彼女に触れないで貰えますか?」

 嫌がる葵を無理矢理に連れて行こうと、掴んだ手の力を強める拓矢。
 
 ……だが、その乱暴な腕を振り払った者がいた。

「……え……なんで……?」

 広い腕の中に優しく引き寄せられて、抱き締められた葵は目を見開いて戸惑う。

「……いぬ、かいくん……?」

「……間に合ってよかった……!」

 戸惑いながら見上げた葵の視線の先には、いつもの黒縁眼鏡を外し、心底安堵した表情を浮かべた彰良がいた。

「(……きれいな……目……)」

 普段は整えられている髪も乱れ、本気で駆け付けてくれたとわかる彰良の瞳を見て、葵は場違いなことを思う。

「おいっ……じゃま、を……」

「これ以上、無作法を働くならば警察を呼びますよ。
 女性を無理矢理ホテルに連れ込もうとする酔っぱらいがいる、と。」

 頭上からジロリと見下ろし、拓也から隠すように葵を抱き締める彰良の最後通牒。

「うっ……クソっ……!」

 周囲の白い目もやっと感じたのか、アルコールが回った頭でも分が悪いと判断した拓也はカウンター席にどっしりと座り直す。

「マスター!
 何でもいいから酒を出せっ!」

「かしこまりました。」

 すねた子供のように葵達に背を向け、拓也は酒を持ってこい!とマスターに怒鳴る。

「行きましょう、先輩」

「え、あの支払いが……」

 拓矢に再び絡まれないうちに立ち去ろうと促す彰良を制止して、葵は財布を取り出そうとする。

「マスター、此処までの会計をこれで。」

「えっ?!
 ちょ、待って、犬飼君?!」

 多少は酔っているせいか、素面の時よりは時間がかかる葵を尻目に、彰良がサッと硬質な黒いカードをマスターへ手渡してしまう。
 
「今度こそ、行きますよ。」

「い、犬飼君……?!」

 展開の速さに付いていけない葵の背中を押すように、マスターは穏やかな微笑みで見送るのだった。