その恋、賭けですよね? ~理性的なハイスペ後輩の仮面が剥がれたら、狼の執着と独占欲で朝まで抱き潰されそうです~【本編ざまぁ完結+恋人同士の焦れ焦れ 統合版】



 屋上へと登る階段。

 コンクリートの床から突出した小さな建物(ペントハウス)。

 灰色の壁には濃い色のオーニングがせり出していた。

「…………犬飼君を待たなくて良かったのかしら……」

「大丈夫ですよ!
 犬飼さんも大人ですもん!
 ……もしかしたら、佐山先輩辺りと男同士の友情を深めているかもですよ。」

「……確かに、男性同士で食べる方が気が楽かも……」

「男は男同士、女は女同士で楽しみましょう!」

「そうですね……誰かと一緒にお弁当って……久しぶりだわ」

 嬉しそうに微笑む葵に、華乃はキョトンとする。

「……学生時代は、偶に誰かとお弁当を食べることは有ったけど……社会人になってからは……無かった気がするの。」

「……私が……葵先輩の初ランチ相手ですか?」

「そうね。
 いつもはデスクで食べていることが多かったけど…………華乃ちゃん」

「…………」

「私をお昼ご飯に誘ってくれてありがとう。
 とても……嬉しいの。
 誰かと一緒に屋上でお弁当も素敵ね。」

 オーニングの下。

 壁際に置かれたベンチに腰掛け、葵は微笑みかける。

「……葵、先輩って……ずるい……!
 鈍いのに……天然タラシ過ぎませんか……!」

「華乃ちゃん……?」

 顔を両手で覆って隠す華乃。

 その首筋は赤く染まっている。

「えっと……ごめんなさい……?」

「…………絶対に何が悪かったか、わかってないですよね……?」

「うっ……ふ、普通に嬉しかったから……ありがとうって伝えたくて……。
 あと、また誘ってくれたら嬉しいし、私も……誘っても、良いですか?
 も、もしも嫌なら断ってくれて良いから……気が向いたら……」

「気が向かなくても誘います!
 それに……大好きな葵先輩と二人きりになれる時間を断る理由がないです。」

 微かに染まった頬。

 嬉しそうに、愛しそうに。

 葵を見詰める。

「…………少しずつ、大好きな葵先輩の心を占領できているみたいで……してやったり、ですね?」

「っ…………華乃ちゃんって……どうして、そんなに色気があるの……?
 ……私より、年下なのに……ずるい……」

 熱の籠もった視線。

 色気に当てられ、葵の頬に朱が昇る。

「ズルいのはお互いさまだと思いまーす!」

 うふふ!と楽しげに笑う華乃。

 霧散した色気のかわりに悪戯っ子な猫の笑顔に葵も微笑む。

「それはそうと!
 そろそろお弁当を食べないとお昼ご飯を食べずに終わっちゃいますよ。」

「そうね、お昼からも仕事があるし、栄養をつけないとね」

「…………」

 ランチバックを開き始めた葵の手元を、華乃はジッと見詰める。
 
「華乃ちゃん……?」

「葵先輩、相談なんですけど……お弁当、交換しませんか?」

「え……?」

 唐突な華乃の提案に目を瞬かせる。

「何ていうか……一人暮らしをしていると、誰かの手作りに飢えちゃうって言うか……」

「ああ、確かにね。
 自分が作った以外の、外食とかじゃないご飯って食べたくなるとき有りますよね。」

「ですよね!
 だから……葵先輩が良かったら、お弁当を交換しませんか?」

 上目遣いに葵を見詰める。

「ダメ、ですか……?」

「……ダメ、ではないけど……」

 お願いします、と切なげな華乃に葵は悩む。

「私のお弁当、適当ですよ?
 自分用だから、彩りとかも悪いし……節約弁当だし……」

「私も同じです!
 最近、飲み会に行き過ぎちゃって、お給料日前だし、地味にピンチなんです!
 だから、同じ節約弁当同士のよしみでお願いします!」

「……そっか……」

 小さく納得した葵。

「折角だから、お弁当を交換してみようかな……」

「やった……!」

 小さくガッツポーズをする華乃。

 どこか嬉しそうな雰囲気を漂わせる葵。

「いただきます!」

「……いただきます」

 ほぼ同時に開けたお弁当の蓋。

「うわぁ……葵先輩、ぜんぜん適当じゃないです!
 彩りも綺麗だし……美味しそう……!」

 エノキの豚肉巻き、余った野菜で作ったきんぴら、卵焼き。

「ありがとう。
 夕飯の余りを詰めただけだから、ちょっと恥ずかしいな。
 華乃ちゃんのお弁当も、とても美味しそうね。」

 豚の生姜焼き、シメジとピーマンのお浸し、卵焼き。

「……本当はもっと凝ったお弁当を葵先輩に渡したかったんですけど……。
 私にも、こう……キラキラってした可愛いデコ弁を作る能力が欲しかったです。」

「キラキラしたデコ弁って可愛いし、素敵だよね。
 ……でも私は、このお弁当の方がホッとするというか……気構えなくて済むというか……?
 うん……華乃ちゃんが作ってくれたお弁当だから、私は好きです。」

 微笑みを添えて、気負いもなく普通に告げられた葵の言葉。

「……葵先輩って……ほんとに、もう……この、無意識天然タラシ……!
 (……なにこれ!なにこれ!
 私の方が!私の方が攻めてたはずなのにぃぃっっ!)」

「……華乃ちゃん……?」

 小さく呟き、無言で悶える華乃。

 声が聞こえず、首を傾げる葵。

「……ほんっとーに!
 葵先輩はズルい!
 そして、いただきます!」

 華乃は豪快にエノキの豚肉巻きを口に放り込む。

「えー……よくわからないけど、改めていただきます。」

 クスリと笑って、葵も生姜焼きを口に運ぶ。

 黙々と食べ進めていく二人。

「……葵先輩の卵焼きって、おかず系のだし巻きなんですね。」
 
「華乃ちゃんの卵焼きは甘い系なんですね。」

 お互いに卵焼きを食べて微笑み合う。

「……葵先輩、機会があったら……私にこの卵焼きの作り方を教えてくれますか?」

「ええ。
 その変わり、華乃ちゃんも私に甘い卵焼きの作り方を教えてくれますか?」
 
 楽しそうに、美味しそうに。

 二人は穏やかなお昼休憩を過ごすのだった。