時の流れとは不思議なもので、一瞬が永遠にも感じられる。
だが、同時に永遠とも感じる時を、瞬きの間として捉えることもある。
「……困らせてしまって……すみません。」
「いえ……その、私も混乱していましたから……」
一瞬とも、永遠とも感じられた時間。
合わせた額と服越しに伝わる鼓動。
二人の熱を分け合い、どちらともなく離れる。
「…………」
「…………」
何処かぎこちない距離。
交わらない視線。
響くことのない声。
「…………犬飼君、備品チェックを終わらせましょうか。
もし、気不味ければ私一人で……」
「葵先輩、それは駄目です。
……大切な女性(ひと)を一人に出来ません。」
「…………犬飼君は……私を……甘やかし過ぎ、だと思います……」
逸らされていた視線が交わり、すぐにまた逸らされる。
「……そうでしょうか?
自分は、そうは思いませんが。」
「…………」
「……葵先輩……?
何か、自分は変なことを言いましたか?」
瞳を伏せていた葵が、不思議そうに彰良を見上げた。
「……犬飼君は……一人称は"俺"なんですね。」
「っ……!」
指摘された事実に、口元を押さえる。
本心を隠すように、黒縁眼鏡をはめる。
「そう言えば……その黒縁眼鏡も伊達ですか?」
「………………」
ぐうの音も出ない。
悪意なく追い詰められる問い掛け。
「……犬飼君?」
「…………言ったでしょう。
余裕など……ない、と。」
微かに染まった耳。
後ろ首に手を添え、外れかけた仮面を取り戻そうとする。
「…………っ……!」
「……あまり……踏み込まない、方が……その、今は……自分も、理性が……」
「ご、ごめんなさい……」
彰良の燻った熱に、慌てて視線を逸らす。
「(…………助けなんて来ない……。
そう……思っていたけど……今は、差し伸べられた手を……掴む勇気が欲しい……)」
……例え、もう一度傷つくことになったとしても。
「(……傷付くことが、怖い……。
……一人きりの方が……ずっと楽だわ……。)」
孤独を選べば、傷付くことは無い。
「(……だけど……死ぬまで、逃げ続けるなんて……嫌だ……)」
生きて、生きて、生き抜いたその先で……笑顔で幸せと言えるだろうか?
「…………でも……選ぶ、ためにも……知りたい、と思って……」
彰良くんのことを……と、微かに零れ落ちた心。
「っ……葵、先輩……?」
ギュッと服を握り、覚悟を振り絞り……彰良へと瞳を向ける。
「……一歩踏み出すのは怖い、わ……。
でも……もう、逃げたくないの……。」
強い輝きを放つ瞳。
「……彰良くん、からも……兼子、さん……からも……」
真っ直ぐに……。
「……自分の意思で……前に、進みたいと思っています。」
恐怖を意志の力で押さえ込む。
進む覚悟を決めた。
「……っ……格好良すぎるでしょう……!」
強さを兼ね備えた美しさ。
彰良を魅了し、惹きつけて離さない。
「……これでも、犬飼君の先輩ですから。」
葵は自分の意思で岐路に立つ。
「後輩たちに、負けてばっかりではいられないでしょう……?」
靭やかな微笑み。
「……ただ……もし、私がまた……泣きそうな、ときは……犬飼君の、背広を……貸してくれますか……?」
「っ……」
彰良の袖口を掴んだ細い指先。
微かに揺れる瞳。
……初めて、見せた甘え。
「……そんな……顔で……っ……」
直視できない。
「……本当にっ……葵、先輩は……卑怯だ……!」
口元を押さえて、逸らされた横顔。
染まった首筋。
「……葵先輩が、望むなら……俺、ごと渡します……」
耐えられない。
愛しさが溢れて止まらない。
「……えっと……ありがとう……が、頑張って、受け取り、ますね……」
逃げずに受け止める。
返された柔らかな微笑み。
「…………っ…………」
今度こそ、激情を抑えるように葵へ無言を返すのだった。
