その恋、賭けですよね? ~理性的なハイスペ後輩の仮面が剥がれたら、狼の執着と独占欲で朝まで抱き潰されそうです~【本編ざまぁ完結+恋人同士の焦れ焦れ 統合版】




 二つの針が天井を指し示し、仕掛け時計の鐘が鳴る。

 小洒落たバーのカウンター席に座った一組の男女。

「シンデレラじゃないですが、鐘が鳴りましたね。
 ……約束の三ヶ月です。
 これで恋人ごっこは終わりだわ。」

 まっすぐに自分の言葉で終止符を打つ女。

「さようなら。
 今後は、業務以外のことで二度と話しかけないでください。」

 俯く男に視線を送ることなく女は立ち上がるのだった。

「(……地味子と三ヶ月以内にセックス出来るか?
 その"賭け"を知っていた私と貴方の関係なんて……始まってすらいなかったけど。)」




 そう……この時の私はまだ知らなかった。

 理性的な仮面を被った後輩に、激しく求められることを。

「……誰にも、触れさせたくない女性を……目の前で奪われかけて……何も感じないほど……余裕は、ありません……!」

 閉じ込めてでも愛し尽くしたいと、狂おしいまでに溺愛されることを。

 ……まだ知らなかった。





※※※※※※※※※※




 大小様々な会社のオフィスが立ち並び、老若男女、様々な業種の人間達が行き交う大都会。

 そんな大都会の一角にあるオフィスビルの一室。

 パソコンを打つ音、書類をめくる音、ペンを走らせる音、コピー機の音。

 今日も、何処にでもある仕事の音が響いていた。

「……ここ、漢字を間違ってますね。
 あと、こっちは文章が可笑しいから見直してみるともっと良くなると思います。」

「……私、頑張ったんですけど……また失敗しちゃいましたぁ。」

「大丈夫ですよ、兼子(かねこ)さんは焦らずに気を付ければ問題ないと思うもの。」

「立花先輩っ!ありがとうございます!」

 可愛らしい笑顔を浮かべて頭を下げる華乃の緩く巻かれた髪が揺れる。

「犬飼さんは、問題ありませんでした。
 このまま提出をお願いします。」

「はい、ありがとうございました。」

 立っていても見上げてしまうほどの大柄な体躯。
 まるでラガーマンのような身体に見合わない分厚い黒縁メガネの彰良が微笑む。

 己の席へ戻る二人の正反対な後輩を前に葵は内心でため息をつく。

「(後輩って、距離感がわかんないから苦手なんだけどなぁ……)」

 大学を卒業して五年。
 社会の荒波にもまれ、そろそろ中堅どころな立場となった自分。

「(まぁ、後輩だけじゃなくて、人間関係自体が苦手なんだけどね。)」

 もともと一匹狼な器質の強かった葵にとって、本音と建前を隠しながら生活をすることは昔から当たり前のことだった。

「(……女同士でも気を使うし、男相手はもっと面倒くさいし……一人でも生きていける力を身に着けないとなぁ……)」

 後輩たちの書類チェックを早々に終わらせて、自分の仕事に向き直る。

「(さてと、提出された各部署の領収書チェックから始めますか)」

 総務部に配属されて五年。

 営業部や企画部などの派手さは全くないものの、実直で穏やかな雰囲気の総務部。

 そんな総務部が、そして注目を浴びることはなくとも黙々と仕事を進めることができる環境を葵は気に入っていた。

「あ、居た!」

「(げっ……)」

 入り口の方から聞こえてきた声に、葵の眉がピクリと動く。

「葵、ちょっといい?」

「……黒木さん、何か御用でしょうか?
 あと、名前呼びはちょっと……
 (無理って言っても引き下がらないくせに。)」

 表面に出さないものの、内心では苦虫を百匹は噛み潰したような気持ちになる葵。

「ごめん、嫌がることをしたくはないんだけど…………好きな人の名前って呼びたくて、ね?」

「……………そうですか……」

 葵の顔を覗き込むように屈み、ニッコリと微笑む拓矢の言葉にブルリと寒気が走る。

「……それで、何の御用でしょうか?」

「恋人相手につれないなぁ……。
 ま、そんな所が素敵だけどね。」

「…………そうですか……ありがとうございます……」

 白目をむきそうな気持ちを押し留め、葵は一応なりとも恋人関係である拓矢を何とか対応する。

「あっ……拓矢さん!」

「ん?
 華乃ちゃん、今日も可愛いね。」

「えっ!
 んもうっ!
 恋人さんの前で他の女の子を褒めちゃだめですよぉ!」

 キャッキャッ、ウフフ……とじゃれ合う拓矢と華乃。

「…………。
 (ははっ……恋人さん、ねえ?)」

 どっちが恋人だよ、と言わんばかりのイチャつきに、葵は内心で乾いた笑いが漏れた。

「……………」

 そんな三人のやり取りをジッと見つめる彰良は、何かを考え込むように口元へ手を当てるのだった。