泡沫の月に幽玄の狼


わたしは、あの貴博と暮らしたマンションを出て、今は絃士の暮らしているマンションへと引っ越している。

そう、わたしたちはやり直すことにしたのだ。

「今日は早めに帰って来れそうだから、夜に少し散歩しないか?」
「うん、行きたい」

わたしは入院で訛ってしまった身体を動かす為に、夜に絃士と散歩する事が楽しみになっていた。
頭の傷もだいぶ良くなり、打撲もほぼ治ってきている。

それから絃士は、「じゃあ、いってくる」と言うと、わたしに口づけし、頭を撫でてから出勤して行った。
そんな絃士に手を振り、見送るわたし。

今は、些細な絃士との日常が幸せで堪らない。

またこんな心穏やかな日々が送れるようになるだなんて、夢のようだった。


そして今日もお昼ご飯を作って、美貴が来てくれた。

「やっほー!」

今日の美貴は、抱っこ紐をして陽斗くんと一緒だ。

「簡単でゴメンだけど、オムライス作ってきた!」

そう言って、美貴はタッパーが入った紙袋を持ち上げて見せた。

「いつもごめんね。本当にありがとう」
「全然!いつもなんて来れてないし、たまにこのくらいはさせてよ!」
「いや、本当に助かってるんだから!美貴に足を向けて寝れません」
「そんな大袈裟!」

美貴はそう言って、豪快に笑った。

「今日は陽斗いるからすぐ帰るけど、今度またみんなで集まろね!たっぷり惚気話聞かせてもらうから!」
「惚気話って、そんなのないよ」
「またまたぁ〜!幸せなくせに!」
「まあ、幸せは幸せだけど···」

わたしが照れながらそう言うと、美貴はわたしに手を合わせ「ほら!ご馳走様です」と言ってからかった。

「それじゃあ、ちゃんと食べて体力つけるんだよ!またね!」
「うん!ありがとね!またね!」

そして美貴は大きく手を振り、元気に帰って行った。