泡沫の月に幽玄の狼


「―――真相を漏らさない事、そして···都子の命を守りたいなら""別れろ"と言われた。だから、都子を守る為に···当時の俺は別れを選択するしかなかった」

絃士はそう言ったあとで、フンッと鼻で笑い「都子を守るとか言ったくせに、別れを選択する事でしか守れないなんて···俺ダサいよな。その時思ったよ、俺は無力だなって···」と言った。

わたしは絃士が抱えていた状況や想いを知り、何と言葉をかければ良いのか分からなかった。
ただ、一つだけ言いたかったことがあった―――

「わたしは···、ずっと絃士のことが忘れられなかったよ」

わたしがそう言うと、絃士は俯いて、一つ涙を溢した。
それから涙を隠すように一度わたしと反対側を向くと、誤魔化すようにして涙を拭い、こちらを向いた。

「俺も···、都子を忘れたことはなかった。ずっと、都子と別れたことを後悔してた」

絃士の口から聞く、彼の気持ちに涙が溢れる。

(良かった···)

わたしはまだ絃士と心で繋がれていたことが、素直に嬉しかった。

「俺···、決着つけてくるよ。自分が抱えてきた問題と、水島と···決着をつけて、それから都子を迎えに来る」
「···大丈夫なの?」

わたしが不安気にそう訊くと、絃士は不器用に微笑み、それから「心配するな」と言った。

「だから、都子は安心して身体を休めて···元気になれ」

絃士はそう言うと、わたしを優しく包み込んだ。
久しぶりに触れる絃士のぬくもり。

わたしはそっと絃士の背中に腕を回すと、彼も耳元で「···待ってる」と囁いたのだった。