泡沫の月に幽玄の狼


すると、もう一人のお見舞い客がやって来た。

「都子、大丈夫か?!」

慌てた様子で駆け付けてくれたのは、絃士だった。

「え、絃士?」

わたしは絃士には連絡はしていない。
わたしが驚いていると、その横で芝浦くんが「俺が連絡したんだ」と言った。

「あー、じゃあ、わたしたち飲み物買ってくるね!ね?芝浦!」
「そうだな。飲み物買ってくるわ!」

そう言い、わたしと絃士を二人きりにさせるように美貴と芝浦くんは手を振り、病室から出て行った。

病室に残された絃士とわたし。
絃士は、ゆっくりとこちらに歩み寄って来ると「大丈夫か?」と言い、ベッド脇にある椅子に腰を掛けた。

「うん、大丈夫。傷だったり打撲はあるけど、脳や骨には異常ないみたい」
「そうか。それなら良かった···。でも、ごめん···」
「えっ?何が?」
「昨日、都子が来た時にちゃんと話しを聞いていれば、何とか防げたのかもしれないのに···」

絃士はそう言うと、膝の上に置く手をギュッと握り締めた。

「ううん、絃士が謝る必要ない。逆に心配かけちゃって、ごめんね」
「都子は悪くない。元はといえば、俺が最初から都子を守っていれば···こんなことには······」

自分を責める絃士の言葉にわたしは首を横に振った。

「絃士は絃士で、何か事情があったんでしょ?実は···昨日、椎名さんっていう刑事さんがわたしのとこに来てね。あの火事のこと、色々教えてくれたの」
「えっ?」
「あの犯人···、貴博だったんだってね」

わたしがそう訊くと、絃士は俯き、それから「そこまで聞いたのか」と呟いた。

すると、絃士は自分の口から当時の話しを聞かせてくれた。

「あの頃、捜査を進めていくうちに辿り着いたのは、犯人が水島貴博だという事だった。実は、当時都子にストーカーして嫌がらせをしていたのも水島だったんだ。そして、俺が上にそれを報告すると、いきなり担当者の変更と異動の辞令が言い渡された。俺は納得出来なかったけど、当時水島の父親は市議会議員で、息子が事件を起こしたなんて事になったら都合が悪かったらしい。だから、権力を使って真相を隠蔽する為に俺は飛ばされた。それから―――」

絃士はそこまで言ったあとで、言葉を詰まらせた。