泡沫の月に幽玄の狼


それか医師を診察を受けたわたしは、気を失っている間に脳のMRI検査を受けていたことを知らされた。
検査結果は、特に問題無かったようだが、後頭部が切れて出血した事と、身体の数カ所に打撲がみられる為、数日間入院して経過観察をすることになった。

その際にわたしは看護師さんにどのように運ばれて来たのかを訊いた。
すると―――

「恋人だと名乗る男性が救急に連絡して、運ばれてきたんですよ。足を滑らせて階段から落ちたと聞きました。あ、今呼んでいますね」

その看護師さんの言葉にわたしは咄嗟に「待ってください!」と止める。

(恋人と名乗る男性?足を滑らせて階段から落ちた?それって···)

看護師さんは驚いた様子で「どうかされましたか?」と言った。

「あ、あのぉ···その男性の名前って···」
「名前ですか?水島さんとおっしゃってましたが、違いますか?」

(貴博だ···!)

わたしはその瞬間に痛い身体を動かして、必死に看護師さんを引き留めた。

「呼ばないでください!」
「えっ?でも、すごく心配されてましたよ?」
「わたし、その男に突き飛ばされて落ちたんです!だから、呼ばないでください!」

わたしは看護師さんにそう伝えた後で、"水島貴博"と名乗る男性は病室に立ち入り禁止にしてもらった。

貴博はわたしの首を絞め、階段から突き落とした―――

そんな奴に会いたいわけがない。



次の日になると、午後から美貴と芝浦くんが血相を変えてお見舞いに駆け付けてくれた。
二人とも、わたしからの連絡でとても驚いて飛んできてくれたようだ。

美貴は頭に包帯を巻くわたしの姿を見た途端に駆け寄り、抱き締めてくれた。

「都子!もうビックリしたよ!無事で良かったぁ!」

美貴と芝浦くんには、どうしてこのようなことになったのか、連絡をした際に説明していた。
やはり、二人とも貴博の異常さに驚き、二人からも病院側には貴博をわたしに近付けないように伝えてくれたようだ。

そして、わたしは二人にある頼み事をした。

「椎名さんっていう刑事さんに連絡してほしいの」

二人とも初めて聞く名前に不思議そうな表情を浮かべていたが、事情を説明し、椎名さんにこのことを伝えてもらえるようにお願いした。

それに対して美貴も芝浦くんも「必ず伝える」と約束してくれた。