冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい


 シュランゲン小径(こみち)の上にある哲学者の道。
 旅行の定番だから行きたかったのだが、街路灯(がいろとう)がないらしく夜に行くのは危険らしい。今日は時間配分を間違えてしまって間に合わなかったのだ。

(なんだろう、この男の人、私にずっとついてくるんだけど……)

 しばらく歩いてマルクト広場に辿りつくと、煌びやかな飾り付けがイルミネーションでキラキラと輝いているのが、パッと目に入ってくる。
 美桜はうっとりとした声を上げた。

「わあ、すごい、素敵……!」

 テナントやマーケットが設営されており、クリスマスオーナメントやイエス生誕を再現したジオラマ、多種多様なプレゼントが店先には並んでいる。
 そこかしこには、クリスマスピラミッドがそびえ立ち、外れた場所にある移動遊園地では子どもたちが楽しそうにはしゃいで過ごしていた。
 遠くのステージからはコーラスが聴こえてきて、これぞクリスマスマーケットという趣だ。

(せっかくだから、何かクリスマスのお土産でも買って帰ろうかな?)

 そう思ってテナントの一角へと進む。
 サンタやトナカイや天使といったオーナメントが並んでいる。
 ちょうど可愛らしい黒猫の飾り物が目に入った。
 
(手のひらサイズ位だから、1000円ぐらいで買えるかな?)

 日本の感覚で手にとったのだが、値段を見て愕然とした。

「30ユーロ……!?」

 円安だとは聞いていたが、まさかの価格設定に驚きを隠せない。
 
(可愛いけど、さすがに高いかな……)

 少しだけしょんぼりしながら歩いていると――。
 美青年が店員と会話をはじめた。ドイツ語で話しているから、内容はさっぱり分からない。
 とりあえず、彼の買い物を待ってやる義理はないので、その場を離れることにした。
 そろそろチェックインの時間だ。
 旧市街地の向こう側にあるホテルの予約をとっているので、そちらに向かわないといけない。

(近道しないと時間になっちゃう)

 広場から外れてややうす暗い道へと進む。

「みゃお」

 ちょうど黒猫が現れて足元に擦り寄ってきた。

「可愛い猫ちゃん」

 そっと抱き抱えると、ふわふわして気持ちが良かった。
 ふと、視線を感じた。
 路地裏の方からガラが悪そうな男たちや、派手な見た目の女性達が、こちらに視線を送ってきているではないか。日本人よりも身長が高くて、迫力のある見た目をしている。

(海外にも不良みたいな人たちがいるのね)

 確かテレビの観光情報では、夜は日本よりも治安がよくないと報道していたはずだ。
 先ほどの「日本人女性は高値で売れる」という美青年の発言を思い出して、背筋に冷や汗が流れるのを感じる。
 その時。

「おい、案外、薄情なやつだな」