「だったら、貴方も同じようなタイプの男性なんですか? 悪い男の人」
「残念だが、俺は犯罪には手を染めたことがない」
「でしたら、こうやって女性によく話しかけてらっしゃるんですか? 日本人男性だと安心させて近づく手口でしょうか?」
すると、美青年からはあっけらかんとした返事が返ってくる。
「いいや、特に。そもそもが、あんたみたいに小さい女よりも、もっと派手で後腐れがないような女としか、あまり関わり合いにならないな」
「……そうですか」
「だから、あんたみたいなタイプは初めてだ」
どうやらかなり軟派な男性のようだ。こんな風に綺麗な見た目の男性だし、女性関係で困った試しがないのかもしれない。
(モテるタイプの男性とはお近づきになったこともないし、怪しすぎるから、これ以上は関りにならない方が身のためね)
美桜は相手のことを振り返らずに、ホテルに向かってまっすぐに歩むが、残念ながらというべきか、背後から美青年がずっと喋り続けてくる。
「なあ、あんた、髪が短いけど、男にでもフラれて傷心旅行にここまで来たのか?」
「違います。そもそも今時は傷心旅行で海外に旅行したりしません」
「最近の若い奴らは言い方がキツイな。どうやら年寄り扱いされているみたいで残念だな」
「……私よりも年上じゃないんですか?」
「最近、三十になったな」
「やっぱり年上じゃないですか」
無視したら良いのかもしれないが、「美桜、誰かを無視してはいけないよ」と両親から言いつけられて育ってきているため、誰かを無視するのが難しくて仕方がない。
その時。
美桜のことを追い抜いた美青年が手招きをしてくる。
「ほら、こっちに来てみろよ」
「え?」
もうすぐアルテ橋も終わりだ。たもとに視線を向けると、そこには――動物の像が設置されていた。
「わあ! 顔がない! なんですか、これ?」
「金貨を持つ猿だよ。左手に金貨を持ってるだろう? そいつに触れば、一生お金に困らないって言い伝えがあるんだ」
少々不気味だけれども、美桜は猿の像の左手の金貨に触れた。
夜だし、ひんやりと冷たい。しばらく撫でていたのだが、ハッとする。
(いけない! 会話に乗せられてしまってた!)
どうやら美青年は話術が巧みなようで、美桜もついつい話に乗ってしまった。
美桜は橋を渡りきると、マルクト広場に向かう通りを進む。
「つれないな。子ども騙しすぎたか」
「別に子ども騙しだとは思っていません。教えてくださったことは感謝しています」
「それはどうも。そういやあ、今日はどこを回ったんだ? 城と博物館でも行ったのか?」
「日中に城と博物館には行きました」
「哲学者の道は?」
「行けませんでした」


