恭司にとっては美桜のことなど遊び相手の女性の一人にすぎないのだろう。
口にするべきではなかったかもと後悔していたら……。
食べ終わった恭司が匙を置くと、ポツポツと口にしはじめた。
「……俺もガキの頃から両親不在みたいなもんだったから、弟とたまに飯を食うことはあったが、基本的にはずっと飯は一人で食ってたんだ。だから……」
美桜はパッと顔を上げた。
「俺たち、似たもの同士だな」
恭司が少しだけ寂しそうに微笑んだ。
(恭司さんは両親不在の中で過ごしたの?)
美桜の胸がきゅうっと疼いたのだった。
明日からまた仕事だ。
だから、美桜はマンションへと帰ることになった。
恭司は美桜が帰ることに対してどことなく不服そうだったが、色んな理由を告げて説得すると、しぶしぶ了承してくれた。
『外に出ると面倒なんだって……まあ、だいぶ暗くなってきたし、仕方ないな。一緒に出るか』
恭司が歩いて送ってくれることになったのだが、そんな風に言われてしまい、美桜としてはショックを受けた。
(恭司さん、どうしてこんなに一緒に外に出たがらないんだろう?)
そこでハッとする。
(私が本命じゃないから)
遊んでいる女性のうちの一人でしかない美桜と噂になったら困ってしまう。
だから、一緒に外に出たくないのだ――!
そんな風に思っていたのだが……。
恭司と並んで歩いてみて気付いてしまったことがある。
(なるほど、目立つから外に出たくなかったのね)
恭司が歩くと女性達が黄色い声を上げて振り返る。
長身で美形のために、かなり目立ってしまっていた。
ちょうど暗くなってきていたので、ものすごく目立たずに済んではいる。
勝手に悪い想像をして、相手を非難するのは良くなかったと反省に至った。
「ごめんなさい、恭司さん」
「ドイツ以上に日本を歩くのが面倒なんだよ」
恭司がぼやいていた。
お互いのマンションはそこまで離れていなかったのもあって、二人は美桜のマンション前へと辿り着く。
なんとなく寂しいが、これでお別れだ。
「恭司さん、ありがとうございました。またミオちゃんの世話に行かせてくださいね」
そうして、マンションのエントランスに足を踏み入れようとした美桜だったが、恭司に引き留められてしまう。
「そういえば、あんたに渡すものがある」
「え……?」
振り向いた美桜の顔の前、小さな何かが差し出されていた。
まるでドイツでの出来事の再演のようだ。
キラリ。
銀色が鈍い光を放っていた。
「ほら、鍵だ」
「何のでしょうか……?」
美桜は胸の前に両手を差し出すと、恭司から鍵を受け取った。
「俺のマンションの合い鍵だ」
「え? そんな大事なものを、どうして?」
「ん? あんたが出入りしやすいようにだよ」
美桜は首を傾げた。
(ミオちゃんのお世話のために自由に出入りして良いぞってことかな?)
とりあえず、微笑みかけることにする。
「ありがとうございます。ミオちゃんのお世話に来ますね」
「ああ。助かる。仕事が忙しくて帰ってこれないことも多いからな」
「なるほど、確かに出張なんかの時に、私が世話に来た方が、ミオちゃんも寂しくないですもんね」
恭司がふっと微笑んだ。
「ちゃんとまた来てくれるか?」
「はい、もちろんです」


