恭司と美桜はダイニングルームで過ごしていた。
キッチンに立った美桜は鍋でぐつぐつ林檎を煮ていた。林檎の爽やかな香りに葡萄の芳醇な香りと砂糖の甘くて優しい香りが混ざりあいながら、鼻腔を突いてくる。
電気を止めると、白磁の器に盛って、恭司の座る机の前に差し出した。
「はい、恭司さんもどうぞ。林檎の赤ワインコンポートです」
しばらく前に林檎をシャリシャリかじっていた美桜だったが、ふと視界の端に赤ワインが映ったため、せっかくだから作ろうと思い至ったのだった。
恭司が銀の匙ですくうと口に運んだ。
彼の姿を見届けた後、美桜も銀の匙で掬い上げて、口へ放り込む。
口の中で甘くて濃厚な味わいがホロホロ溶けて、幸せいっぱいになった。
「あんた、料理が好きなのか?」
「はい、簡単なお菓子作りが好きなんです。甘酸っぱくて美味しいでしょう? すごく簡単にできるんですけど、とっても美味しいんです」
「確かに、うまいな」
恭司がふっと口元を綻ばせた。
ドキン。
美桜の心臓が跳ね上がる。
(こんな風に男の人に手作りのお菓子を食べてもらったことなんて一回もなかったから、すごく嬉しいかも)
勝手に頬が緩んでしまう。
そうして、恭司が蕩けるような笑みを浮かべてきた。
「毎日こういうの食べられるなら幸せだな」
(あ……毎日)
恭司にとっては何気ない発言だと理解はしているけれど、毎日こんな風に一緒にご飯を食べる相手がいるなら、なんて幸せなことだろう。
三人家族で育った美桜だったが、両親が不仲だったせいもあり、準備されるご飯を一人で食べることが多かったから尚のこと、そんな風に感じてしまう。
美桜はなんとなく切なくなって俯いた。
「ん? どうした?」
恭司が何気なく話しかけてくる。
「え?」
「すごく嬉しそうだったのに、急に陰ったなと思ってな」
「それは……」
――ドイツでも恭司は何げなく話を聞いてくれた。
これまで会ってきた誰よりも――この人ならば話を聞いてくれそうな気がする。
「私のおうち、両親があんまり仲が良くなくて……さっき、恭司さんが毎日食べられたら嬉しいって言ってくれたので、それで……」
すると。
「へえ、そうか」
恭司からの返事はそれだけだった。
ズキン。
美桜の胸が痛む。
少々重たい話をしてしまったかもしれない。
(余計なこと、言わなきゃ良かったかな?)


