冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい

 電話の音がわりかし大きくて――というか、電話越しなのに難波の声が騒々しくて、美桜は少しだけ夢うつつを彷徨っていた。
 たまたま二人のやりとりが聴こえてきていた。
 美桜はぼんやりとした頭で考える。

(恭司さんには母親違いの弟さんがいるのね)

 ――順一。

 日本人男性らしい名前だと思う。
 どこかで聞き覚えのある名前だが、どこで聞いたのだろうか?

(そうだ)

 ふっと、誰の名前だったのか思い出した。

(新宮部長の名前も順一だった気がする)

 新宮順一部長。
 ――美桜が以前勤めていた会社の上司だ。
 年は四つ上ぐらいなのに、関西で有名な新宮財閥の御曹司ということもあって、異例の大出世を果たしていた。
 少しだけ色素が薄い感じの髪色。明るくて穏やかで優しい性格だったし、皆にも好かれている人物だった。
 気さくな人物だったし、仕事もかなり出来るタイプの男性で、美桜の仕事の手伝いをよくしてくれた。
 婚約者がいるという話だったが、今頃結婚しただろうか?

『なあ、梅田さんは、めっちゃ仕事が丁寧やな。ありがとうな』

 ある時、新宮部長が美桜のことを褒めてきた。
 それ以来、彼がよく話しかけてくるようになった。
 よく褒めてくれるので、優しい上司だと嬉しかったのだが……結果的にそれが同僚女性達からの反発を生んだ。

(おかしな噂のせいで、新宮部長の婚約者の女性にだって迷惑がかかったかもしれない)

 ――誰かに迷惑がかかるのは怖い。
 夢うつつの中、罪悪感で美桜の胸が潰されそうになってくる。
 そんな中、隣で寝転がる恭司が美桜にそっと腕を回してきた。
 そうして――。
 猫が愛を告げてくるように、鼻を擦り寄せてくる。

「まだ寝ているみたいだな。外もまだ暗いし、俺も一緒に寝るか」

 恭司が横になっていた美桜のことを強く抱きしめてきた。

(恭司さんの腕の中、気持ちが良い)

 くよくよした悩みもどこかに飛んでいくかのようだ。
 それに――彼がすごく優しく抱きしめてくるものだから、まるで恋人同士になったかのように錯覚してしまう。
 そんなはずは勿論ない。
 自分が一番分かっている。
 けれども……。

(夢の中ぐらい、幸せな気持ちでいたいな)

 恭司が美桜のことをぎゅっと抱きしめてくる。
 彼女も寝ぼけたまま、そっと彼のことを抱きしめ返した。

「……っ」

 恭司が小さな呻き声を漏らす。
 しばらくすると、優しく背中を擦られる。
 そうして、美桜は――また眠りに就いたのだった。



***



 迎えた朝。
 窓から差し込む光が、美桜の眼裏を刺激してきて、そっと瞼を持ち上げた。
 
「むにゃ……」

(ここ、どこだっけ……?)

 見知らぬ天井が真っ先に目に入ってきた。
 なんとなく身体が何かにぎゅうぎゅうされていて苦しいぐらいだ。

(寒いから、お布団をたくさん着込んだんだっけ?)

 朝陽へと目を向ける。空はすっかり澄み渡っていた。
 頭元ですうすう寝息が聞こえてくる。

(寝息……? そうだ、私……!)

 美桜は我に返ると、ガバリと身体を起こそうとしたのだが……。

「むぎゅ……!」

 なんとか顔を少しだけ動かして、自分のことを抱きしめて離さない人物の顔を見る。