冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい



 恭司は美桜の黒髪に自身の指を絡めた。彼自身も艶のある髪だと自負しているが、彼女は自分以上にサラサラで指通りの良い髪質だ。
 ――梅田美桜。
 白くて透明感のある肌に、ほんのり赤く色づいた頬。桜色の小さな唇からは、愛らしい寝息が漏れ出ている。
 あどけない顔立ちの彼女が眠ると、華奢な体躯や丸まって眠る姿も相まって、まるで子どものようだ。
 だが、恭司は――恭司だけは知っている。
 彼の腕の中では――色香を放つ妖艶な生き物に変貌することを。

『あんまり焦んない方が良いぞ。ペットと絆を深めるのに時間はじっくりかけるべきだ。猫なんて特に自由にさせとくのが一番良い』

 難波が恭司のことを諭すように告げてくる。
 昔から、こういう風に兄貴風を吹かせて恭司の世話を焼きたがるところがある。

「へえ、そんなものか?」

『ああ、そうだ。犬みたいに従順じゃあないからな。だが、猫はそんなところが魅力なんだ。無理やり躾けて、その魅力をわざわざ奪うなんて、悪の所業だ』

「やけに年季が入った言い回しだな」

『俺は動物が好きなんだ』

「ガキの頃から一緒にいるのに、それは知らなかったな」

『そうだろう? 恭司、お前はそういう薄情なやつだからな。俺に興味がないんだよ』

 難波が悲痛に満ちた声を上げた。
 恭司は溜息を吐きながら返す。

「全く興味がないなら、一緒に仕事はしていないって」

『そうか? そうなら良いがな』

 ふと。
 恭司は気になる話を問いかけた。

「そういやあ、難波は結婚、付き合ってどれぐらいで決めたんだったか?」

『一目惚れだったが、付き合うまでは時間があって、付き合ってからは数か月だな』

「意外と短期間だな。じゃあ、別に短くても問題はないのか」

『元々顔が好みだったしな。……って、恭司、どうした? まさか結婚する気になったのか!? この間、する気ないって言ってたのに! ドイツで女と一緒だったって言ってたが、それか!?』

「どうだろうな?」

『どうだろうなってどういうことだよ?』

「単純に分からないものは分からない。それだけだ」

 ――自分が家庭を持つ想像がつかないのだ。
 今まで考えたことがなかったのだから仕方がないのかもしれない。
 難波の家に遊びに行けば、幸せな家庭とやらが見れるのかもしれないが――。

「まずは逃げられないように手を打たないといけない」

『猫の話に戻ったのか? ……まあ、良い。結婚するつもりなら、その内、俺にも紹介してくれ』

 恭司は返事をしなかった。

『ああ、そういやあ、順一と会って来たぞ』

 難波の話を耳にして――恭司の眉がピクリと動いた。
 一度だけ息を吸い込むと、淡々と答えた。

「それで?」

『それで、ってなあ。恭司、親父さんや順一の母親とは確執があるかもしれないが、結婚する前に一度くらい順一とは会ってやれよ』

「……別にあいつは俺に会いたくなんかないだろうさ。どっかの旧華族の家系の女と婚約していただろう? 俺みたいなのが兄貴なのは、先方だって嫌がるんじゃないか?」

『それがな……』

 難波がどことなく言いにくそうにしていた。

『どうやら順一は破談になったらしいんだ』

「へえ、なんでだよ? 相手の女がどうせ金とか家柄とか目当ての女だったんだろう?」

『実はだな……好きな女が出来たとか、なんとかで……』

 その時、電話口の難波の背後から子どもたちの声が聞こえてくる。

『って、悪い、恭司、そろそろ時間だ。土日を挟むし、そんなに急がなくて良い内容だと思うから、週明けにでも話させてくれよ』
 
 早朝の騒々しい電話は――唐突に終わりを告げたのだった。