冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい





 恭司は少しだけ眠っていたが、目を覚ました。
 すぐにベッドの隣を見る。
 だが――。

「いない……!」

 梅田美桜の姿はそこにはなかった。
 恭司は慌てて上半身を起こす。
 すると。

「……むにゃ」

 ベッドの足側の方で、何かの物体を発見する。

 ――梅田美桜だ。

 ベッドの端で身体を丸めて眠りに就いていた。

「なんだよ、驚かせやがって」

 恭司は少しだけ安堵した。
 黒髪をかきあげると、ハッと笑った。

「寝相、悪すぎだろ。ガキかよ」

 梅田美桜。
 ドイツで一夜を共にして以来、二度目の夜だった。
 今時珍しい純真無垢な類の人物でもある。
 行動に予測がつかなくて――どうにも気になってしまって、ドイツでだって、ついつい後を追ってしまっていたし、日本に戻ってきてからだって、自由にどこかに逃げ出されないようにと、会社で雇うことにしてしまった。

「本当に猫みたいな女だな」

 ――以前は新宮の会社で働いていたからと、全く警戒しなかったわけではない。
 そばに置いておいた方が、監視がしやすいという名目もないこともないが……。

(こいつ、思っていることが顔に出るからな)

 企業スパイなんかは絶対にできないタイプだ。

「だから、たぶん違う。それにしたって、どうするかな。俺もこいつのドジさを馬鹿にはできないな」

 昨晩の彼女の言葉を思い出す。

『私は結婚して幸せな家庭を築くのが夢だったんです。できれば初めての男性と』

『貴方とあんなことがあったので、もう誰とも結婚しない覚悟を決めています』

 恭司がじっと丸まっている美桜の姿を眺めた。

「じゃあ、こいつ、俺と結婚しない限りはずっと独身ってことだよな。だって、結婚相手、俺しかあり得ないってことだろうし」

 自身の生い立ちゆえに――女性が日陰の身で生きていくのは避けたくて、生真面目な女性とだけは関係を持ったことがなかったのに。

「結婚して幸せな家庭を築く、か……」

 幸せな家庭。
 漠然としているし、そもそも自分にそんな場所で過ごした経験がないので、想像が全くつかない。
 だがしかし、このままだと一人の女性の夢が永遠に叶わなくなるかもしれない。
 彼女が言ったように、もう大人だから、自分の責任は自分でとる。
 その考えで正しいのかもしれないが……。

 ――脳裏に少年時代の記憶が過る。

『恭司、ごめんなさい。私のせいで……本当なら貴方は新宮一族の子どもとして幸せな人生を歩めたかもしれないのに。私のせいで……』

 やつれた女性の姿。
 今も時々思い出しては苦しくなる。

「俺は所帯を持つつもりは……ないんだがな」

 ふと――美桜が黒猫ミオを嬉しそうに抱き抱える姿が脳裏に浮かんでくる。
 同時に――彼女が赤ん坊を抱きしめる姿も。

「なんだよ、今の想像は……」

 自分らしくない考えだ。
 恭司は頭を振ると、美桜を自身の隣に移した。
 すやすやと眠る彼女の髪に、彼は自身の指を絡めて梳きはじめる。

「……幸せな家庭ね」

 もしかしたら、この純真な女性となら――いわゆる幸せな家庭とやらを築くことができるのだろうか?
 恭司が黒髪をかき上げると、ポツリとぼやく。

「俺もそろそろ覚悟を決めるか?」

 ――恭司のどこか期待に満ちた声は、眠る美桜には聞こえていなかったのだった。