冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい



 理性が「これ以上はダメだ」「引き返せなくなるぞ」と必死に訴えかけてきていた。
 ちょうど、停電していた電気が復旧して明るくなる。
 廊下の床が愛液で汚れてしまっているのが視界の端に映って、羞恥が駆ける。

「ああ、理由が分かった」

「え?」

 ドキン。
 心臓が跳ね上がる。

「ここが廊下だからか」

「へ……? きゃっ……!」

 恭司が美桜のことをお姫様抱っこすると、その場で立ち上がった。
 そうして、彼が再び浴室へと向かいはじめる。

「色々とやり直す場所にしては不適切だった」

「場所の問題じゃないんです」

「じゃあ、なんなんだよ? この数週間で恋人が出来て、そいつに操を立ててるとかでもないだろう?」

「それはありませんが……」

「だったら、お互い独身同士だ。何の問題もない」

「問題がないわけじゃあないですよね?」

「俺に問題はない」

 浴室へと続く扉が開いた。

「……そういえば、どうしてまたお風呂に?」

「汗かいただろう? せっかくだから、一緒に入ろうと思って」

「ええっ……!?」

 そうして、美桜の身体は湯船の中へと入れられる。
 チャプリ。
 まだそんなに時間は経っていないので、湯の温度はまだ温かい。
 怒涛の勢いで混乱してしまう。
 ちょうど、恭司の脱衣している姿が目に入った。
 ドキン。
 心臓が跳ね上がる。

(あ……)

 恭司がスーツジャケットを脱ぐと、近くのポールにかけた。次にネクタイをしゅるりと解く。骨ばった鎖骨が視界に入って、ついつい見惚れてしまった。そうして、ボタンを外していくと、白シャツをそのまま床に脱ぎ捨てた。
 筋骨隆々とした雄々しい身体つきを前に――美桜の心臓は高鳴っていく。
 あの夜に抱き締められた感覚を思い出してしまう。

(私は……)

 ドイツでは酒の勢いもあって、恭司と一夜を共にしてしまったが、そもそも美桜の性格的に、恋人でも何でもない男性と何度も夜を一緒には過ごせない。

(恭司さんは不特定多数の女性と身体の関係を持つのに慣れてるのかもしれないけれど……私はそうじゃないもの)

 どうにかしないといけない。

「そもそも、これ以上はっ……ちゃんと社長と社員で、節度を弁えた、行動を……あっ……」

 恭司が湯船に入って来た。
 比較的広い浴槽だが、男女二人で入ると手狭であり、お湯が溢れて落ちていく。

「ここはもう会社じゃない。俺は経営者ではあるが、それ以前に一人の人間なんでね。そもそもドイツで、あんたは別に会社社長に抱かれたわけじゃあなかっただろう?」

「それは……そうでしたけれど……今は状況が変わってしまったんです。社長と社員になったんです。だから、ダメです」
 
 美桜は身体を翻すと、浴槽の中から逃げだそうとしたのだけれど……。

「あっ」

 恭司に背後から抱きしめられてしまった。

「また俺から逃げるつもりか?」
 
 彼女の耳朶に彼の吐息がかかった。
 ゾクリ。
 背筋をゾクゾクとした感覚が駆け上っていく。

「社長から……逃げるわけじゃなくって……」

「今逃げようとしただろう?」

 ――嘘は吐けない。
 美桜が何も言い返せないでいると、恭司が囁いてくる。

「今度こそ逃がすつもりはない」

「逃げませんから……だから……」

 すると、美桜は恭司に唇を奪われてしまう。
 角度を変えて深い口づけを何度も交わす。
 頭の芯がクラクラしてくる。
 けれども、恭司がふっと離れた。

「どうする、やめるか?」

「あ……」

 残念そうな声を出してしまった。
 美桜の耳元で恭司がクスリと笑った。

「さて、俺に無理強いする趣味はない。抵抗したいなら、今の内だぞ」

 美桜は驚きに目を見張ってしまう。

「……ここまでしておいて、社長はズルいです」

「ズルいか? 俺は直接交渉しているだけのつもりだし、あんたが俺に抱かれたくない理由だって聞こうとしているんだがな」

「それは……」

「ほら、どうする? ここから先はあんたが決めろよ」