会社から五分ぐらい走っただろうか。辿り着いたのは都内のタワーマンションだった。
停電の影響は相当なようで、まだ周辺一帯の電気が復旧していない状態だ。
玄関エントランスに到着した時には、すっかり二人ともびしょ濡れになってしまっていた。
美桜は暗い雨の中、建物を眺めた。
(五十階ぐらいない? すごく高い建物だけど……)
エレベーターが停止しているので、いったいどこまで登れば良いのだろうか?
美桜が色んな意味でドギマギしていると……。
「ああ、俺はな、実は最上階の五十四階に住んでいるんだ」
「ええっ、やっぱり!?」
美桜の口から素っ頓狂な声が漏れ出た。
すると、恭司がくつくつと意地の悪い笑みを浮かべはじめる。
「冗談だよ。あまり高いところは好きじゃなくて、五階に住んでいるから安心しろ」
「……言って良い冗談と悪い冗談があると思います」
「悪いな。あんた、純粋だから面白くってな」
面白がられているのは少々癪である。
恭司がひとしきり笑った後、建物内にある階段で美桜のことを案内してくれた。
普段はオートロックの玄関らしいが、停電中なので鍵で解錠して、真っ暗な空間へと足を踏み入れた。
恭司が近くに置いていた非常用のランタンを灯してくれたおかげで、半径一メートルぐらいは明るくなった。
「ほら、入れよ」
美桜はだだっ広いエントランスでたじろいでしまっていた。
そう、雨の中を走ってきたせいもあり、コートのおかげである程度はマシだが、スーツまで濡れてしまっているのだ。
「こんなびしょ濡れの格好のままでお邪魔して大丈夫でしょうか?」
「ん? ああ、シャワーを貸してやっても良いが……水道は使えるかもしれないが、お湯が出ないんじゃないか? それに真っ暗だから電気が戻ってからにしろ」
「は、はい」
思わず返事をしてしまった。
「びしょ濡れの猫を拾ったつもりだから、そもそも平気だ。ほら、早く上がれよ」
「それでは、お邪魔します」
そのまま室内へと促される。ランタンの灯りが届く範囲ではあるが、まるでマンションのモデルルームのように綺麗だ。
(男性の部屋って散らかっているイメージがあったけど、すごく綺麗にしてある)
人気がないので家族と一緒に過ごしている雰囲気ではないが、恋人か誰かが掃除をしてくれているのだろうか?
「どうした? キョロキョロして」
「ええっと、パッと見た限り綺麗だなと思いまして……」
「ああ、わりと潔癖なんだよ」
「そのう、恋人さんとかが片付けてくれてるとか?」
「いいや。ハウスキーパーを雇っても良いが、俺が掃除してる。あんまり人を自分のテリトリーに入れたくないからな」
恭司に恋人がいるかどうかは分からなかった。
「ん? なんだ? 俺に恋人がいるかどうかが気になるのか?」
「いえ、そんなことは……」
恭司から揶揄うように微笑まれてしまうと、ドギマギしてくる。
「そうか。だったら教えなくて良いな」
「あ……ええっと……」
せっかくなので尋ねてしまえば良かったのだが……。
(なんて意気地なしなの……)
美桜がしょんぼりしていると、恭司が背中を向けたまま返事をしてきた。
「まあ、特定の恋人がいたら、今晩あんたをここには呼んではいない。ここに誰かを連れてきたのは、あんたが初めてだよ」
「そうなんですね……」
美桜の胸の内がぱあっと明るくなった。
停電の影響は相当なようで、まだ周辺一帯の電気が復旧していない状態だ。
玄関エントランスに到着した時には、すっかり二人ともびしょ濡れになってしまっていた。
美桜は暗い雨の中、建物を眺めた。
(五十階ぐらいない? すごく高い建物だけど……)
エレベーターが停止しているので、いったいどこまで登れば良いのだろうか?
美桜が色んな意味でドギマギしていると……。
「ああ、俺はな、実は最上階の五十四階に住んでいるんだ」
「ええっ、やっぱり!?」
美桜の口から素っ頓狂な声が漏れ出た。
すると、恭司がくつくつと意地の悪い笑みを浮かべはじめる。
「冗談だよ。あまり高いところは好きじゃなくて、五階に住んでいるから安心しろ」
「……言って良い冗談と悪い冗談があると思います」
「悪いな。あんた、純粋だから面白くってな」
面白がられているのは少々癪である。
恭司がひとしきり笑った後、建物内にある階段で美桜のことを案内してくれた。
普段はオートロックの玄関らしいが、停電中なので鍵で解錠して、真っ暗な空間へと足を踏み入れた。
恭司が近くに置いていた非常用のランタンを灯してくれたおかげで、半径一メートルぐらいは明るくなった。
「ほら、入れよ」
美桜はだだっ広いエントランスでたじろいでしまっていた。
そう、雨の中を走ってきたせいもあり、コートのおかげである程度はマシだが、スーツまで濡れてしまっているのだ。
「こんなびしょ濡れの格好のままでお邪魔して大丈夫でしょうか?」
「ん? ああ、シャワーを貸してやっても良いが……水道は使えるかもしれないが、お湯が出ないんじゃないか? それに真っ暗だから電気が戻ってからにしろ」
「は、はい」
思わず返事をしてしまった。
「びしょ濡れの猫を拾ったつもりだから、そもそも平気だ。ほら、早く上がれよ」
「それでは、お邪魔します」
そのまま室内へと促される。ランタンの灯りが届く範囲ではあるが、まるでマンションのモデルルームのように綺麗だ。
(男性の部屋って散らかっているイメージがあったけど、すごく綺麗にしてある)
人気がないので家族と一緒に過ごしている雰囲気ではないが、恋人か誰かが掃除をしてくれているのだろうか?
「どうした? キョロキョロして」
「ええっと、パッと見た限り綺麗だなと思いまして……」
「ああ、わりと潔癖なんだよ」
「そのう、恋人さんとかが片付けてくれてるとか?」
「いいや。ハウスキーパーを雇っても良いが、俺が掃除してる。あんまり人を自分のテリトリーに入れたくないからな」
恭司に恋人がいるかどうかは分からなかった。
「ん? なんだ? 俺に恋人がいるかどうかが気になるのか?」
「いえ、そんなことは……」
恭司から揶揄うように微笑まれてしまうと、ドギマギしてくる。
「そうか。だったら教えなくて良いな」
「あ……ええっと……」
せっかくなので尋ねてしまえば良かったのだが……。
(なんて意気地なしなの……)
美桜がしょんぼりしていると、恭司が背中を向けたまま返事をしてきた。
「まあ、特定の恋人がいたら、今晩あんたをここには呼んではいない。ここに誰かを連れてきたのは、あんたが初めてだよ」
「そうなんですね……」
美桜の胸の内がぱあっと明るくなった。


