冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい

 停電の影響で周囲は真っ暗だ。
 会社の玄関先にて。
 美桜は恭司に抱きしめられていた。

「ついてきてほしい。濡れた責任とってくれよ」

 色香を孕んだ声音で耳元で囁かれると――彼女は頭がクラクラしてきた。

(恭司さんのマンションに私が今から?)

「何のために?」

 すると、恭司が美桜を抱きしめる力を強くしてくる。

「わざわざ理由を聞いてくるとか、野暮だな」

 美桜の頬が一気に紅潮していく。

(それって……)

 ドクンドクンドクン。
 心臓の音が煩くて、彼に聞こえていないか不安になってくる。
 ――ドイツ。
 彼に抱擁されて――そのまま初めてを捧げた夜のことを思い出した。
 コート越しにも分かる、彼の男性らしい逞しい身体つき。冬の雨のせいで、ひんやりとした風もどこかに吹き飛んでしまいそうなぐらい、彼の体温が温かくて心地よかった。
 彼の少しだけ硬い指の腹が、彼女の頬に触れてくる。顔にかかっていた黒髪をそっと耳にかけられる。

「さあ、どうする?」

 ――「お前が決めろ」
 そんな風に言われた気がした。

(私は……)

 もう二度と会えないと思っていたのに――こんな風に抱きしめられた上に、こんな風に誘われるなんて……。

(私は恭司さんのことが……)

 一度しか情事は交わしていないけれど、初体験の相手ということもあってか、どうしようもなく忘れられない男性だ。
 だけど……。
 のぼせ上りそうな中、美桜は恭司の顔をしっかりと見つめて返した。

「濡れた責任を取るのに、私が社長のマンションに向かう必要性を感じません」

 恭司が「おや?」という表情を浮かべてくる。

「社長は先ほど私にこう言いました。『流されるな』『自分の頭で考えろ』『取り返しがつかないことになるぞ』『悪い奴に利用される』って」

 美桜がキッパリと述べると、恭司が冷淡に返してくる。

「社長命令でもか? それに――俺のことを悪い奴だと言ってる意味にもとれるが?」

 美桜はハッとする。すぐに慌てそうになるが、少しだけ深呼吸をする。

「社長命令だったとしてもちゃんと線引きはした方が良いと思っただけですし、社長が悪い人だと言いたいわけではありません」

 言い切るのは少々緊張したが、せっかく採用された会社なのに、またおかしな噂が立ちたくはない。
 本当は――このまま再び彼の腕の中で夢を見て過ごしたかった。

(だけど、あの夜とは違う)

 相手はいくつも子会社を持っている社長なのだ。平凡なOLでしかない自分では釣り合いがそもそもとれていない。
 夢を見て、傷つきたくない心理も働いた。
 すると。
 恭司がポツリと呟いた。

「やっぱりこれまでの奴らと違って、一筋縄ではいかないみたいだな。ちゃんと自分の意見も言える女だな。面白い」

「……?」

 小声だったので、少々聞き取りづらかった。