冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい



「だったら、心配いらない。クラウドに残っているだろうさ。バックアップはあるから、ちゃんとお前が作った書類も残っている。後から、適当に拾い上げてやるから」

「え? 本当ですか!? やったあ!」

 美桜が喜んでいると、御影社長が声をかけてくる。

「さて……梅田だったな?」

「はい。そうです」

「会社の中にいても埒が明かない。このまま一緒に退社するぞ」

「え!? 社長とですか!?」

「……なんだ? 何か不満でもあるのか?」

 まさか一緒に帰宅しようと誘われるとは……。

「いいえ、そんなことはないんですけど、私は一社員なので、少々驚いてしまったと言いますか……」

「今の状況で社員のお前を暗闇の中に一人おいていくわけにもいかないだろう? お前がこの真っ暗闇の中で一夜を過ごしたいって言うんだったら、別にそれでも構わないがな」

 彼の言う通りだ。
 決して美桜に好感があるから、一緒に帰ろうと声をかけたわけではないだろう。

(やっぱり私のことは忘れちゃっているよね)

 そんなことを思いながら、一緒に帰ることにする。

「ほら、行くぞ。玄関近くに行けば警備もいるだろうさ」

 まだよく知らない社内だ。
 暗闇の中を歩くのは、少々――いや、かなり怖い。
 ツカツカと彼の革靴の音が廊下に鳴り響く。

(ドイツの時と違って、恭司さんが先を歩いてる)

 長身の彼の歩幅が大きいので、華奢な美桜とは距離がどんどん開いていく。
 あの夜――恭司と初めて関係を持った夜は――足がすくんだ美桜のことを抱き抱えてくれたのに……。

(恭司さんにとって、あの日の私は、すぐに身体の関係を持てそうな騙しやすそうな日本人女性だったんだもの。今の私はただの社員でたくさんいる中の部下の一人でしかなくて……社長である恭司さんにとっては、優しくする必要なんてないのよね)

 暗いせいで思考が弱気になってきた。
 考え事をしていたせいもあって、美桜の歩みがどんどん遅くなっていく。
 悪い考えに支配されているせいもあってか、なんだか鉛でも全身に負ぶっているように、前に向かうのが辛く感じた。

(なんだろう、あの日みたいに優しくしてほしいわけじゃないけど……やっぱり寂しいな)

 このままだと置いていかれそうだ。
 その時。
 カツン。
 恭司が目の前で立ち止まると、こちらを振り返ってくる。
 そうして――。

「遅いな」

 冷たく言い放たれて、美桜は少々萎縮してしまう。

(何だか別の人みたい……やっぱり夢だったんだな)

 しょんぼりしていたら、恭司が不機嫌な言い回しをしてくる。

「ほら、手を出せ」

「え?」

 美桜は言われるがまま、恭司に向かって手を差し出した。
 すると……。

(あ……)

 恭司が美桜の手を握りしめてくる。

「ほら、もう少しだ。行くぞ」

 恭司に手を引かれながら、美桜は彼の背を追う。
 握られた手がどうしようもなく熱くて熱くて仕方がなかった。
 ドキドキする胸を落ち着けながら、二人で玄関へと向かったのだった。