冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい


 もちろんドイツにも暗い色の髪の者たちもいるが、明るい髪色の人物たちが多い。そんな中、漆黒の髪の持ち主は――美桜の目にはかなり目立って見える。
 近づいて目を凝らしてみると、予想通りというべきか、アジア系の男性のようだった。遠目では日本人かどうかがよく分からない。

(それにしたって、この人、すごくカッコイイ)

 美桜の心臓がドキドキしてくる。
 男性は、芸能人もかくやといった美青年だった。サラサラの黒髪に切れ長の鋭い瞳。すっと通った鼻筋。凛々しく引き結ばれた唇。シンプルな白いワイシャツを纏っているが、覗く鎖骨は骨ばっており、胸板は厚く、筋骨隆々としていることが分かる。身長は外国の人たちと立ち並んでも引けを取らない。雄々しき横顔やしなやかな筋に覆われた体格など、まるで黒豹を彷彿とさせる人物だ。

(芸能人? それともモデルさん?)

 韓流や華流ドラマなんかに出てくるような凛々しくも涼し気な雰囲気もありつつ、野性味も持ち合わせた美青年だ。
 美桜が思わず見惚れてしまっていた、その時。
 美青年の漆黒の瞳から一筋の涙が零れ落ちる。

(……っ!)

 ドクン。
 美桜の鼓動が高鳴った。
 カッコ良いからというのも勿論あるのが、どうしてだか目が離せなくなってしまった。気になって仕方がない。
 もしかすると、自分も悲しい出来事があったから共鳴してしまったのかもしれない。

(どうして泣いているの……?)

 美青年の綺麗な横顔からどうしても目を逸らすことが出来ない。
 それどころか、普段は引っ込み思案な自分なのに――美青年の元へと、そっと足を踏み出してしまっていた。バックパックの中に潜ませておいた白いレースのハンカチを取り出すと、そっと美青年へと差し出す。

「あの、こちらをどうぞ」

 すると、彼がこちらを振り向いた。
 黒髪がさらりと揺れると、登りはじめた月の光が零れる。鋭い眼光がこちらを射抜いてきた。
 正面から見ても、ものすごく綺麗な顔立ちの男性だ。
 ドクンドクンドクン。
 美桜の心臓は鳴りやんでくれない。

(こんなにカッコイイ人と対面するのは初めてだから、すごく緊張してきた)

 きゅっと結ばれていた唇がゆっくりと開く。

「……誰だ?」

 初めて聞いた彼の美声はどことなく色香を孕んでいる。
 どうやら、今やっとこちらに気付いた様子だった。

「日本人」

 美桜はポツリと呟く。
 すると、美青年から怪訝な――というよりもやや不機嫌そうな表情を浮かべられてしまった。

(初対面なのにジロジロ眺めて怪しいやつだと思われたかも)

 美桜はハッとしてたじろいでしまう。