聞き覚えのある低音の優しい声色。
黒髪がさらりと揺れる。キリリとした眉、鋭い漆黒の瞳、すっと通った鼻筋に凛々しく引き結ばれた唇。雄々しくも美しい顔立ちの美青年。
(……恭司……さん)
以前会った時とは違い、今日はスーツ姿であり、きっちりと着こなしており、真面目な印象が強かった。
旅先のドイツで一夜を共にした恭司の姿に、美桜は雷で打たれたかのような衝撃を受ける。
(どうして恭司さんが社長室に……?)
まさかの遭遇だ。
他人の空似も考えたが、こんなに綺麗な顔立ちの美青年が日本に何人もいるはずがない。
美桜の心臓がバクバクと跳ね上がる。
(そんなまさか、会社の社長だとか、そんなはずは……)
すると、恭司が口を開いた。
「私が社長の御影恭司だ」
美桜は頭をガツンと殴られた気になった。
(確か、社長は冷徹だと評判の人で、日本の仕事は難波副社長に任せて、最近まで海外で過ごしていたって話で……)
恭司に冷徹な印象がなかったせいで、思考が追い付かない。
美桜はそこでハッとする。
(海外で過ごしていたって、ドイツで過ごしていたってこと……!?)
だったら、話に齟齬はない気がする。
(まさかまた会えるなんて……)
心臓がドキドキしてくる。
淡い期待でなんだか胸が熱くなってくる。
なんだか運命の再会みたいで嬉しかった。けれども、そこで再びハッとする。
(新しく入社した会社の社長が恭司さんということよね? だったら、私は上司とあんなことを……!?)
当初は嬉しかったけれども、なんだか不安な気持ちがチラついてくる。
社長と一夜を共にしてしまっているというのは、あまり良くないのではないだろうか?
ある意味で、前の会社で噂になっていたこと――上司と身体の関係になっているから楽している――という内容の噂が現実になってしまったようで衝撃が激しい。
(どうしよう、知らなかったとはいえ、絶対に良くないかも……)
しかしながら、会社に勤める前の話だし、お互いに知り合いではなかったのだから、仕方がない面もあるのではないだろうか?
そんな風に葛藤していたら……。
美桜のことに気付いているのかいないのか、恭司がこちらに視線を向けてきていた。
(「あの後探していたんだ」なんてことは、さすがに自分に都合が良すぎる考えかな?)
とはいえ、どうしても淡い期待を抱いてしまう。
ゴクリ。
美桜は唾を飲み込むと、恭司に声をかけた。
「どうして私のことをお呼びになったんでしょうか?」


