冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい


 今までに女性に対して抱いたことのない高揚感が全身を支配してきていた。
 昨晩が初体験だったらしいし、名前ぐらい呼んでやった方が良かったと、今更ながら後悔する。
 恭司は慈しむような優しい声音でベッドで寝ているはずの女性に声をかけた。

「ああ、そうだ、名前はなんだ?」

 だが、部屋はシンとしており、彼女からの返事はない。

「ん……?」

 恭司は上半身を気だるげに起こした。昨晩が女性にとっての初体験ということで、相手にかなり気を遣ったせいもあってか、よく眠れて頭はすっきりしているものの、少々疲れが残っているようだ。

「……って、いないな」

 周囲を見回したが、そばにはいない。シーツの温もりからして、しばらく前には消えてしまったようだ。

「どこに行った?」

 挨拶もなしに立ち去るタイプの女性には見えなかったのに。
 あの女性が浴室にでもいるかと思ったが、気配はない。
 部屋の中を探したが、脱ぎちらかしたはずの衣服もないし、所持していたはずの荷物もないし、どうやら帰ってしまったようだ。

「逃げたのか?」

 ふと、テーブルの上に置手紙が置いてあることに気付く。
 可愛らしい丸文字で「ありがとうございました」とだけ書いてある。
 礼儀正しい人間のようだったのに、どうして挨拶もなしに消えてしまったのだろうか――?
 理由がサッパリ分からなかった。

「せっかく今日は違う街でも案内してやろうって思ったのにな」

 普段の自分なら到底そんなことは思いもしないのだが……。
 妙に落胆してしまっている自分がいる。
 一気に脱力感が襲ってきて、全身に嫌な感覚が這いずりはじめる。

「結局――あんたも俺から去っていくんだな」

 あの女性に対して――気まぐれな子猫の印象が強くなった。
 どうして名前ぐらい聞いておかなかったのか。

(だが、所詮は俺から離れるだけの女だったってことだ)

 そんな風に自分に言い聞かせていたのが、胸のざわつきが落ち着いてはくれなかった。
 ふと、視界の端に一枚のハンカチを見つけた。白いレースのもので、綺麗にアイロンがかけられている。
 拾ってみると、何やら刺繍がしてあった。

「MIO」

 ミオ。
 このハンカチのブランド名だろうか?
 それとも、人の名前だろうか?
 もしかすると……。

「ミオ、か。あいつの名前かもしれない」

 いつもならこんなに一人の女性が自分の心を支配してくることはないのに。
 確か彼女は今日もハイデルベルク内を観光する予定だったはずだ。
 今から急いで探せば、また街中で会えるかもしれない――!

(仕方ないな、探してみるか)

 恭司が床に落ちている衣服に慌てて身に着けていた、その時。
 ガチャリ。
 ドアが開いた。

「ああ、帰ってきたのか……!」

 期待で胸が弾んだ。
 現れたのは――。