冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい


 翌朝。

「……っ」

 美桜はガバリと身体を起こす。
 窓の外では太陽が顔を覗かせていた。

(私……)

 そばをみやれば、昨晩結ばれた恭司が寝息を立てて眠っていた。
 相手は眠っているけれど、気恥ずかしさもあって、シーツで胸を隠してしまった。
 海外に来ていたことで、いつも以上に気持ちが解放的になっていて、大胆な行動をしてしまっていた。
 しかしながら、昨晩の自身の迂闊な行為を思い出して――一気に顔面蒼白になった。

(……出会ったばかりの男性と淫らな行為に及んでしまった……!)

 酒も入っていたこともあって、完全に大失態を犯してしまったことに気付く。
 とはいえ……。

(昨日はすごく優しいし……)

 気持ちが良くて……ホテルも綺麗なことも相まって、まるでお姫様にでもなった気分に浸れていた。

(もしも物語みたいに……恭司さんが私にひとめ惚れしてたりしたら嬉しいけれど……そんなことあるわけないか)

 自分の方はと言えば――すっかり恭司の魅力に惹かれてしまっていた。

(何だろう、勝手にこういう行為って一回だけだと思ってたけど……何回も……一生分色々した気がする……)

 しかも初めての相手ということもあって、きっとこれから先も一生忘れられない男性として、自分の胸の内に刻まれることになるだろう。
 そういえば、美桜はすっかり元気になったが、恭司は――どうして昨晩泣いていたのだろうか?
 ちょうど、その時。

 ガンガンガンガンガン!

 激しく扉を叩く音が聞こえ、美桜はビクリと跳ね上がった。

「おい、恭司! 中にいるんだろう! 起きろ! 学生時代から変わってないな! 朝に弱すぎだろう!」

 扉の向こうから声が聞こえる。
 さすがに恭司も起きただろうと思ったのだが……。
 すやすやと寝息を立てて眠っていた。

(すごい、こんなに音が大きいのに、全然起きない)

 ドアの向こうにいるのは、どうやら日本人男性のようだ。
 美桜が恭司の代わりに出るべきか否か逡巡していると……。

「おい! また女を部屋に連れ込んでるんじゃないんだろうな! 面倒ごとを起こすなよ! ああ、くそっ、部屋のカードキーでも借りに行くか……」

 美桜はハッとすると、恭司を眺める。

(やけに手慣れていると思っていたけれど、この人、もしかしていつも同じような流れでこの部屋に女性を案内しているの?)

 ――女性にモテる男性は――やはり信用ならない。

「……ん」

 恭司の声がしたので、美桜はハッと身を強張らせる。

 彼の方へと視線を移せば、どうやら寝返りを打っていただけのようだった。

(いけない、恭司さんが私と一緒にいるって知ったら、さっきの男の人が恭司さんを怒るかもしれない)

 美桜は眠る恭司の顔を眺めた。
 胸が少しだけ苦しくなる。

(誰にでもこんなことをしているのは……正直ショックだったし、一瞬で失恋しちゃったけれど……)

 窓の向こうから差し込む朝陽が美桜の横顔を照らす。
 久しぶりに満面の笑みを浮かべた。
 異性関係に疎いせいもあって、もしかすると騙されてしまったのかもしれないが……。

(この人が自分のことを慰めてくれて心が軽くなったのは事実だもの)

 なんだか新しい自分に生まれ変わった気がして、清々しい気分だ。

「一夜の夢をありがとうございました」

 急がないと、恭司が目を覚ますかもしれないし、先程の男性だって帰ってくるかもしれない。
 シーツを抜け出すと、床に脱ぎ捨ててあった衣服を慌てて身につける。
 ひとまず置手紙は残しておこう。
 近くにあるメモに「ありがとうございました」と記載した後、とある事実に気付く。

(そういえば名前を名乗っていなかったけれど……)

 立つ鳥跡を濁さず、だ。
 妙なつながりを作っても、恭司からしたら迷惑かもしれない。
 自分としても、これから先のことを期待してしまって、ちゃんと自分の人生を生きられなくなるかもしれない。

「さようなら、恭司さん、本当にありがとうございました」

 彼女はそっと彼の頬に口づけた。
 美桜は恭司に挨拶はせずに――外へと飛び出したのだった。