「……くっ……ははっ……」
すると、美青年が腹を抱えて笑い始めた。
怒られると思ったのに、想像とは違う反応で、美桜としても反応に困ってしまう。
「……?」
美桜がキョトンとしていると、美青年がこちらを見てくる。
「全然、フォローになってなさすぎて、笑える」
ひとしきり笑った後、涙を指で拭いながら、美桜の方へと視線を向けてきた。
「あんた、本当に真っ正直に生きてきたみたいだな。今どき、二十代にもなって、そんなに純真無垢なのも珍しいな……ははっ……」
どうやらものすごく面白かったらしい。
美桜はちょっとだけ唇を尖らせてしまった。
「なんだか謝る空気じゃなくなりましたが……ごめんなさい。悪気はなかったんです」
「良いよ。俺も久しぶりにこんな風に腹を抱えて笑ったよ。ありがとうな」
どうしてだか感謝されてしまった。
「そういえば、恭司だ」
「え?」
「名前だよ。俺の名前」
突然、名前を教えられて、美桜はキョトンとしてしまった。
「俺のことを呼ぶのに不便だろう? ほら、せっかくだから、名前を呼んでくれよ」
恭司と名乗る美青年に促されるがまま、美桜はおずおずと名前を口にする。
「きょうじ、さん」
「そうそう。漢字で書くと恭しいに司る」
「割とあけすけない態度だから、恭しい感じがしませんでした」
「初対面相手に結構言うな」
少年のように嬉しそうに微笑んでいる彼の姿を見ていると、心臓がドキドキして落ち着かない。それに会話も弾んで楽しい限りだ。
(恭司……そういえば、どこかでこの名前を見たような……?)
ハローワークに行った時だろうか?
同じ名前の職員がいたとかなのだろうか?
(どこで見たんだろう?)
その時。
ちょうどベルが鳴った。
「ああ、なんだ?」
恭司が対応してくれる。
「サービスでワインはどうかって聞かれたが、どうする?」
美桜の目が光った。
「でしたら、ワインを届けてください!」
「ん? ワインを飲むのか? あんまり飲みなれてないんだろう?」
「はい! だけど、飲みたい気分なんです」
そうして、チップの金額を携帯端末に入力してやると、ホテルマンが笑顔で去って行く。
「じゃあ、俺は帰るから。飲みすぎるなよ」
恭司が部屋の扉へと向かいはじめる。
(あ……せっかく再会できたのに……)
これでお別れなのは――。
(なんだか寂しい)
美桜は咄嗟に恭司の背を追い掛ける。
そうして、立ち去ろうとする彼のシャツの袖を、きゅっと掴んでしまった。
ドクンドクンドクンドクン。
いつも以上に心臓の音が激しい。
「待ってください、恭司さん」
「どうした?」
普段の自分だったら絶対にあり得ない。
だけど……。
美桜は上目遣いで恭司を見つめる。
慣れないお酒で――いつも以上に大胆な発言が口をついて出てきた。
「良ければ、私と一緒にお酒を飲みませんか? このお部屋で」
二人の視線が絡み合ったのだった。


