冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい



「仕方ないから、今日泊まれるホテルを探さないと」

 着の身着のままに近い状態で来たので、あまり荷物を持っていなかったのは幸いだった。
 背中にバックパックを背負ったまま、新しいホテルを探して裏路地を歩く。

「治安があまり良くないから、早く宿屋を探さなきゃ」

 美桜はキョロキョロと周囲を窺った。
 美青年と一緒に歩いていた時よりも慎重に夜道を歩く。
 先ほどまでとは違い、なんだか怖くなってしまい、足取りが重い。
 しばらく川沿いを進んでいると、さっと頭上に影が差したので、パッと顔を上げた。

「Sind Sie Japaner?」

 ものすごく長身で、いかにもガラが悪そうな見た目の若い男が目の前に立っていた。見知らぬ人物がこんな近距離にいるだけでも嫌悪感があるというのに。舌なめずりしてこちらを見下ろされれば、美桜の背中に冷や汗が流れた。
 ゾクリ。
 嫌な感覚が背筋を走り抜けていく。
 本能的に危険を察知してしまった。

(まずい。逃げなきゃ)

 確か、通りがかりに交番があったはずだ。
 そこに駆け込みさえすれば、どうにかなる!
 美桜は小さな体を生かして、掴みかかってこようとする大男の腕をかいくぐって、石畳の上を駆け始めた。

「Warte! Lauf nicht weg!」

 簡単なドイツ語は分かる。というか――極限の状況下に置かれているせいで、なんとなく伝わってくるというべきか。

(待てって言われて、待つわけにはいけない!)

 脚がもつれそうになる中、必死に前へ向かって地面を蹴った。
 ひとまず人通りの多い場所へ向かわなければ!
 そう思ったのだが……。

「きゃっ!」

 石の出っ張りに蹴躓いて転んでしまった。
 派手に転んだせいで、両膝を擦りむいてしまったのが分かる。

「いたた……」

 早く起き上がらないといけない。
 大男がこちらに向かってくる気配を感じる。

「Ich habe ihn erwischt」

 どうしよう、こんなことになるなんて……!
 とにかく立って逃げないといけない。
 慌てて立ち上がろうとした時、腰に何者かの腕が回される。ふわりと背後に浮かんだ。

「止めてください! 離して!」

 先ほどの大男に担がれてしまったのだろうか?
 このまま誘拐されたくはない!

「離して! 離してったら!」

 美桜がめいいっぱい抵抗しようと手足をばたつかせていた、その時。

「大人しいだけの女かと思ったら、わりと威勢も良かったみたいで感心だな」

 ドクン。
 聞き覚えのある声。
 どことなく色香を孕んだ声音に心臓がドキドキと高鳴って止まってくれない。

(まさか……)

 そうして、自分のことを抱き抱えた人物が――外国人男性へ向かって牽制をかける。

「こいつは俺のツレだ。お引き取り願おうか?」

 地を震わすような低い声。
 大男は舌打ちしながら、裏路地へと姿を消していった。
 ドクンドクンドクン。
 美桜の心臓が鳴りやんでくれそうにない。
 自分を抱えている人物へと視線を移す。

(あ……やっぱり……)

 夜風に黒髪がそよぐ。漆黒の鋭い眼光。黒豹のような印象の強い雄々しき美青年。

 ――そう、先程別れたばかりの人物とすぐに再会を果たしたのだった。