冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい



「ひゃあっ……!」

 背後から美青年が声をかけてきた。
 美桜がびくりと体を震わせたのに驚いたのか、黒猫が腕の中からすり抜けて何処かへと去って行った。
 振り向くと美青年と対峙する。

「びっくりさせないでください!」

「悪い悪い。あんた、どうやら猫に好かれる性質みたいだな」

「それはそうかもしれません」

 美桜はちらりと相手を見上げた。

「それにしたって……猫ね」

 彼がふと遠い目をした。
 先ほど橋で涙を流していた姿と重なる。

「猫がどうしたんですか?」

 すると、美青年が皮肉めいた笑みを浮かべた。
 漆黒の瞳に仄暗(ほのぐら)い光が宿る。

「――俺とは相性が悪い。誰かにぬくぬく可愛がられて幸せに生きてきた生き物の象徴みたいな動物だ」

 美桜の背筋にゾクリとした感覚が駆ける。
 美青年が吐き捨てるように告げた。

「猫好きも似たようなもんだ。裕福に暮らしてきた、お人好しの鈍い奴ばっかり。猫なんて、お幸せな奴が飼う、お幸せな愛玩(あいがん)動物だ。なあ、あんたもそうは思わないか?」

 嘲笑(ちょうしょう)めいた問いかけだ。
 美形なことも相まって、有無を言わせぬ物言いに圧倒されてしまう。
 ややこちらを値踏み(ねぶみ)してくるような視線だが、美桜はキッパリと答えた。

「私はそうは思いません。貴方の仰るような猫も多いかもしれませんが、全員が全員、そうじゃないはずです」

「へえ、例えば?」

「愛されているから飼い主を愛する猫もいますし、愛されても過保護にされすぎて飼い主が好きになれない猫もいると思います。それに……」

「それに?」

「――誰かに選ばれずに野良(のら)のままな猫が……誰にも愛されなくても頑張って生きてる、そんな猫だっています。飼い主の皆さんだって色んな人がいるはずです」

 一瞬、美青年の漆黒の瞳が揺れ動いた。

「流されるだけの女かと思ったが、わりと自分の意見はハッキリ言えるみたいだな」

 そうして、彼は自虐的(じぎゃくてき)な笑みを浮かべる。

「だが、あんただって同じ猫なら、さっきの薄汚れた野良猫(のらねこ)みたいなのじゃなくて、皆に愛されて育った高貴な猫を選ぶだろう?」

 美桜はキッパリと答えた。

「いいえ、私は単純だから、自分に懐いてくれる猫が好きです」

「……高貴だが、色んな奴らから疎まれているような猫でもか?」

「はい、もしもその猫が私のことを好きだって言ってくれたら、私もきっと好きになると思います」

 美青年がひゅっと息を呑んだ。同時に、彼の瞳が忙しなく揺れ動く。

(どうしたの……?)

 何も言わなくなった彼に向かって、少しだけ場を和らげたくなって、美桜は違う話題を振ることにした。

「それに、気になったんですけど、貴方は……」

「なんだ?」

「猫よりも――あの像みたいな不気味なお猿さんの方が好みなんですか……?」

 美桜は真顔で問いかけた。
 すると。
 目の前の美青年がクツクツと笑い始めた。

「くっ……はは、これは傑作(けっさく)だな」

「どうして笑うんですか……!?」

「いや、あんたは俺とは違って、今みたいに純粋なまま生きててくれよ。悪かった、猫のアレコレは冗談だ」

 そうして、困惑している美桜の眼前に、美青年が何かを差し出してくる。