最後の嘘は、愛だった

「……あの子ね、まだ他にも言ってたの」

美華がそう言った。

俺は顔を上げる。

「……何を?」

美華は少し迷ったあと、静かに口を開いた。

「もっと生きたいって」

「……」

「もっともっと、蓮と一緒にいたいって」

胸が痛くなった。

「どうすればいいのって……都薇のお母さんに聞いたの」

「……おばさんに?」

「うん」

美華は目を伏せた。

「都薇、毎晩泣いてたらしいの」

「……毎晩?」

「部屋から泣く声が聞こえてきて……お母さんも耐えられなくなって、都薇の部屋に入って慰めたんだって」

俺は何も言えなかった。

「そのとき、都薇が言ったらしいの」

美華の声が少し震える。

「『私、もっと生きたいよ』って」

「……」

「『死にたくない』って」

息が詰まる。

「『もっと蓮と一緒にいたい。蓮と一緒に生きたい』って……」

目の奥が熱くなった。

俺は必死に涙を堪えた。

「でも……」

美華は続けた。

「『そんなこと言えない』って」

「……なんで」

「『だって、手術が成功する確率は低いんだもん』って」

美華は都薇の言葉を思い出すように、一つ一つ話していく。

「『むやみに言えないよ』って」

「……」

「『蓮を傷つけるだけだから』って」

その瞬間、涙が頬を伝った。

「……俺は」

声が出なかった。

「俺は……都薇が俺のこと嫌いになったと思ってた」

美華は黙っている。

「好きな人ができたって言われて……俺じゃない誰かを選んだんだって」

唇を噛む。

「なのに……」

涙が止まらなかった。

「都薇は、俺と一緒に生きたいって思ってたのかよ……」

美華は小さく頷いた。

「……うん」

「だったら……」

言葉が詰まる。

「だったら俺に言えよ……」

悔しくて、悲しくて、どうしようもなかった。

「俺は待ったのに……」

誰もいない廊下に、俺の声だけが響いた。

「帰ってこられるか分からなくても……俺は待ったのに……」

そして、ようやく気づいた。

都薇が俺についた嘘は、俺を捨てるための嘘なんかじゃなかった。

――俺を愛していたからこそ、ついた嘘だった。