――真夏の夜の花火の下、奇跡のような両想いを果たした安達咲夏と観月冬弥は。
その後、ふたりが正式に付き合うことになったという特大のニュースは、すぐに知華や那智、そして怜の3人にも報告された。
知華は自分のことのように「やったぁあ!」と部屋で跳びはねて喜び、那智もマスカットのチュッパチャプスをくわえながら「よくやった」と頭を撫でてくれた。
そして――後からそれを聞いた冬弥が、怜に向かって「っていうか怜!、あのどさくさに紛れて、咲夏に俺より先に『一番好きだ』とか言って告るとか、まじでズルいんだけど!?」と、本気で可愛いヤキモチを妬いて突っかかっていたのは、一体いつの思い出だっただろうか。
そんな賑やかな夏休みが終わりを告げ、今日からいよいよ2学期が始まる。
朝、クーラーの切れた自室で、咲夏はルンルンとした気分のまま全身鏡の前に立っていた。
新しくサロンで手入れした透明感抜群のピンクベージュの髪。
耳元で涼しげにきらめくのは、あの日からずっとお気に入りのスワロフスキーのピアスだ。
仕上げに、いまSNSの美容垢で一番バズっている『chiroru』ブランドの限定ティントリップを唇に滑らせれば、ぷるんとした完璧な艶めきが完成する。
自分の足の比率が最も美しく見える黄金比で裾上げされた、チェック柄のミニスカートをひらりとはためかせ、咲夏は鏡の中の自分に向かって満面の笑顔を浮かべた。
「よしっ!でーきたっ!」
誰もが思わず振り返るような、圧倒的透明感を放つ『清純派の白ギャルスタイル』の完成だ。
「行ってきまーす!」
弾むような声をリビングに響かせ、咲夏はるんるん気分で家を飛び出した。
今日もピンクブラウンの髪がふわりと揺れる。
駅へと向かってローファーをトントンと響かせるたび、その足先は自然と、世界で一番大好きな人の待つ場所へと真っ直ぐに向かっていく。
駅前の時計台の前。
いつもの綺麗な制服を爽やかに着こなし、カバンを肩にかけた冬弥が、咲夏の姿を見つけるなり、パッと太陽のような笑顔を弾けさせた。
「おーーーい、咲夏!遅いぞっ」
「あはは、ごめんね、冬弥くん!少しでも可愛く見せたくて、準備に時間かかっちゃった!」
自分でも後から恥ずかしくなるような、バカみたいに甘いセリフを本気で返してしまう。
けれど、冬弥はそんな咲夏の言葉に顔を少しだけ赤く染めると、「ほんと、まじで可愛すぎだろ……」と、繋いだ右手にきゅっと熱い力を込めてベタ惚れな様子で微笑んでくれた。
すると、そんなふたりの極甘な空間を切り裂くようにして、背後から聞き覚えのある気怠げな声が飛んでくる。
「はいはい。朝からお熱いこってー。見てるこっちが火傷するわぁ」
両手をポケットに突っ込み、のん気に呆れたようなため息をついている怜だった。
「ちょっとー!咲夏っち、朝から超特大の『LOVEフラグ』じゃん♡」
横からワンレンボブの髪を揺らした知華が、ニシシとニヤリ顔を浮かべて顔を覗き込んでくる。
その少し後ろでは、相変わらずクールにスマホをいじっている那智が、怜の方をチラリと見て不敵に口元を緩めた。
「つーか怜、わかりやすく咲夏のこと、いつまでも引きずってんじゃねーよ」
「なっ……!う、うるせぇよ。んなわけねぇだろ」
那智からの鋭すぎるからかいの直撃を受け、怜は少しだけ無愛想に視線を逸らしながら、耳元をほんのりと赤くしてぶっきらぼうに呟いた。
その口元には、大好きなふたりの幸せを誰よりも近くで見守る、優しい『共犯者』としての笑みが確かに浮かんでいる。
中学時代、頑固な前髪と跳ねた黒髪に悩み、「終わってた」はずの彼女の青春。
けれど、自分の『好き』を信じて一歩を踏事出したから、いま、こんなにも眩しくて愛おしい大切な仲間たちが、自分のすぐ隣に並んで笑ってくれている。
「ほーら、みんな急がないと遅刻するぞ!」
冬弥が咲夏の手を引いて歩き出し、知華たちが賑やかにそれに続く。
初秋の爽やかな風が、澄み渡るの青空を吹き抜けていく。
完璧なギャルへと生まれ変わった咲夏の、前途多難で、けれど世界で一番きらきらとした、最高に愛おしい2学期が、いま最高の笑顔と共に新しく幕を開けるのだった。
Fin.



