――人生で、こんなにも必死に走ったことが、これまでにあっただろうか。
神様、走る勢いで浴衣の裾が少しだけはだけてしまう私をお許しください。
せっかく時間をかけて綺麗にまとめたヘアセットが、汗と風で少しだけ乱れてしまっていることをお許しください。
いつもと違う自分を見せたくて、最初は大人しい『清楚系』の浴衣を選んだ。
けれど、知華や那智が、そして怜が背中を押してくれたから、咲夏はもう、自分に嘘をつくのをやめると決めたのだ。
でも私はやっぱり、自分の『好き』を貫いて努力してきた、可愛い清純派の白ギャルで居たい。
だから――ほんの少しだけ背伸びをさせてください。
憧れの自分に出会うために。
そして何より、大好きな人の、冬弥くんの隣に胸を張って立つために。
カラン、コロンと激しく下駄の音を響かせ、夜の雑踏をただひたすらに駆け抜ける。
すると、お祭りの提灯の明かりの向こうから、人混みを必死にかき分けてこちらへ走ってくる、藍色の浴衣姿の少し汗ばんだ彼が見えた。
「安達さんっっっ!!!!」
周囲の喧騒をすべて消し去るような、必死の形相を浮かべた冬弥の叫び声。
「――っ、冬弥くんっっっ!!!!」
咲夏もまた、少し泣きそうになりながら、今あるすべての声を振り絞って彼の名前を呼んだ。
ふたりの距離が一気にゼロになる。
咲夏が彼の目の前にたどり着いたその瞬間、冬弥は溢れ出さんばかりの愛おしさと焦燥のままに、咲夏の身体をその太い腕で、折れてしまいそうなほどの力いっぱいで、ぎゅっと抱きしめた。
「あ……っ!」
あまりの勢いと熱い抱擁に、咲夏は驚いて言葉を失う。
冬弥の浴衣とほのり爽やかな汗の匂い、お祭りの匂い、そしてドクドクと狂ったように速い彼の鼓動が、咲夏の身体に伝わってくる。



