夏と冬が重なれば。【完結】


受話器の向こうから届いた冬弥のその問いかけに、咲夏はショッピングモールのど真ん中で完全にフリーズしてしまっていた。

(ふたりで、夏祭り……。それって……つまり……っ)

 脳内をぐるぐると駆け巡る『二人きり』という甘すぎるフレーズ。

あまりの衝撃に咲夏の思考回路は完全にシャットダウンし、生返事すら返せないまま無言の時間が流れてしまう。 

返事が遅い咲夏を心配したのか、冬弥が電話の向こうで慌てたように少し声を和らげた。

『あ、でもさ!地元の大きいお祭りだから、屋台とかは怜が担当してたり、他のクラスメイトもちらほら遊びに来てたりはするんだけどね。あはは』

 どこか言い訳のように付け足された冬弥の言葉に、咲夏ははっと現実へと引き戻された。

「え、そうなの!?……あ、でも!行く!行きますっ!」 

怜たちがいると聞いて少しだけ緊張が走ったものの、大好きな冬弥からの初めての誘いを断る理由なんて、どこを探したって一文字もありはしなかった。

咲夏は目が回りそうな勢いで、受話器に向かって全力で即興のイエスを叫んだ。

 すると、電話の奥からクスりと、咲夏の分かりやすすぎる反応を愛おしむような、低い笑い声が聞こえてきた。

『良かった。……地元の連中とかはいっぱいいるけど、一緒に回るのは安達さんと俺の二人だからさ。当日は宜しくね』

「っ……、う、うん!わかった……っ!」

 一緒に回るのは、ふたりきり。
 またしても不意打ちで届けられた冬弥の真っ直ぐな特別扱いに、咲夏は顔から火が出るほどの熱を帯びながら、蚊の鳴くような声でやっとの思いでそう返答した。

 通話が切れ、画面が静かになったスマホを胸元にぎゅっと抱きしめる。ショッピングモールの喧騒のなか、咲夏の心臓はドクドクと、これまでにないほど大きな波紋を広げていた。

(これって……もしかしなくても、本物の『夏祭りデート』だよね!?!?)

 心の中に微炭酸のようなきらきらとした喜びがシュワシュワと弾け、一瞬にして心が天まで届きそうなほどに弾む。

「――よし! こうしちゃいられないっ!」

 咲夏は抱えていた買い物袋をぎゅっと握り直すと、キリッと前を見据えて気合いを入れ直した。

向かう先は、モール内にある特設の着物・浴衣売り場だ。 普段の咲夏は、こだわり抜いたメイクにピンクベージュの髪、黄金比のミニスカートをまとう完璧な白ギャルスタイル。

けれど、せっかくの夏祭りデートだ。この特別な夜だけは、いつもと違う自分で彼の前に立ちたかった。

(今までずっとギャルすぎたから……浴衣は王道の『清楚系』で、一気にギャップ萌えを狙って挽回しないとっ!) 

あの階段でのハプニング以来、冬弥はポニーテール姿の自分を「新鮮だね」と優しく笑ってくれた。

それなら、浴衣姿の清楚なお姉さんスタイルに変身すれば、今度こそ彼の胸を完全にノックアウトできるかもしれない。

 胸の前で小さく、けれど力強くガッツポーズを決め込み、咲夏は色鮮やかな浴衣が並ぶ売り場へと弾むような足取りで駆け出していった。

 知華が教えてくれた、真っ直ぐ伝える大切さ。

 カバンの中の恋愛成就お守りのご利益が、この真夏の夜、咲夏と冬弥の運命をさらに甘く、熱く、ドラマチックに加速させようとしていた。