全校生徒の前で前代未聞の3人同時ゴールという、奇跡的な爆笑とときめきを巻き起こした体育祭は、あっという間に幕を閉じた。
めまぐるしく流れる季節のなか、気がつけば外ではセミがジリジリとけたたましく鳴き喚き、高校生にとって最大のイベントである『夏休み』へと突入していた。
クーラーが冷気を出して唸る咲夏の部屋。
お気に入りのザラピケのクッションに顔をうずめた咲夏は、本日何度目か分からない特大のため息を吐き出した。
「もー!咲夏っち、そんなにため息ばっかりついてたら幸せが逃げてっちゃうよ〜?」
ベッドの横の床に座り込み、棒アイスを美味しそうに舐めながら知華が励ましの声をかける。
その向かい側では、那智が座椅子にもたれかかりながら、無言でスマホゲームの画面に向かって激しく指をピコピコと動かしていた。
「だってぇ……!あの体育祭でせっかくあんなに良い雰囲気になったのに、結局あれから冬弥くんとはこれといった進展無しだよ!?もう夏休みになっちゃったのにぃ~!」
咲夏はクッションを抱きしめたまま、ベッドの上でバタバタと両足をはためかせて悶絶した。
中身が純情陰キャな咲夏にとって、学校という接点がなくなる夏休みは、あまりにも過酷な出来事だった。
那智はスマホ画面から視線を一切外さないまま、ガムを噛みながらクールに呟く。
「けど、LIMEの連絡先は交換してんだろ?だったらあとは、いつでも呼び出せるように果たし状を送りつけるだけじゃねーの?」
「そのLIMEをどう送ればいいかで困ってるんだよぉお~!それに決闘じゃないってばぁ!」
咲夏はがばっと上体を起こし、那智の物騒すぎる戦術に全力でツッコミを入れた。
冬弥から桃サイダーを貰ったあの日、なんだかんだでちゃんとお互いの個人LIMEは交換できていた。
ちなみに流れで怜もだ。
けれど、臆病な咲夏は自分からメッセージを送る勇気が出ず、トーク画面は冷え切ったままだ。
「確かにねぇ……。観月くん、強豪バスケ部のインターハイ予選とかで、今年の夏はめちゃくちゃ忙しそうって言ってたもんね。そう思うと、こっちからなかなか気軽に送れないっていうか、気を使うよねぇ」
知華がアイスの棒を口にくわえたまま、うーんと眉をひそめて共感してくれる。
強豪校のエースである冬弥は、夏休みも返上で毎日体育館にこもっているらしかった。
「そっかぁ……。……って、そんなことよりさ!知華こそどーなったのよ、朔先輩と!」
咲夏は自分の悩みを一瞬だけ棚に上げ、ベッドの端から身を乗り出して知華に詰め寄った。
そういえば、知華も体育祭をきっかけに朔先輩との距離を縮めていたはずだ。
すると、知華はアイスの棒をごみ箱に捨てると、口元をニヤリと歪めて、珍しくもったいぶるように上目遣いで首を傾げた。
「え~?咲夏っちぃ、本当に聞きたいぃ~?」
「「え?……ま?ま?」」
咲夏と、それまでゲームに没頭していたはずの那智が、全く同じタイミングでバッとハモりながら知華を見つめた。
ギャル語の「マジ?」が、部屋の冷たい空気の中に響き、やっとこさここで発揮されるなんて露知らず。
二人の熱烈な視線を正面から浴びて、知華は顔をこれ以上ないほどだらしなくデレデレに崩すと、両手で頬を包み込んで可愛らしくポーズを決めた。
「はいっ♪その『ま?』の通りでぇす♪実は体育祭のあとの放課後に告白されちゃいまして……。私、朔先輩と正式に付き合うことになりましたぁ~~~っ☆」
「「えええええええええええええええええええ~~~~~っっっっ!?!?!?!!?」」
咲夏の部屋の壁がビリビリと震えるほどの、凄まじい絶叫が重なって響き渡った。
那智にいたっては、驚きのあまり手元のスマホをシーツの上にポロリと落としてしまっている。
まさかの、大親友からの世界一おめでたい超特大の爆弾ハッピーサプライズ。
知華の恋が最高の形で大成就したという事実に、咲夏は自分の恋の停滞なんて一瞬で吹き飛び、知華の体に思いきり飛び込んでお祝いの悲鳴を上げるのだった。



