「え?そうなの……?」
咲夏の口から飛び出した全力の否定を聞いた瞬間、冬弥は素直に驚いたようにパチクリと目を丸くした。
張り詰めていた空気が一気に抜け、彼は次の瞬間、自分の額にそっと手を当てて「はぁあ……」と盛大な、そしてどこかホッとしたようなため息を吐き出した。
「冬弥くん……?」
あまりの落差に、咲夏は何がなんだか分かっていない様子で目を白黒させる。
そんな咲夏の戸惑う顔を見て、冬弥は少し照れくさそうに首の後ろをかきながら、バツが悪そうに笑った。
「あー、ごめん。俺、つい我慢できなくてさ。完全にひとりで勘違いして、突っ走ってたわ」
いつもの爽やかな調子を取り戻した彼の言葉に、咲夏の胸の奥の重苦しいモヤモヤは、すうっと綺麗に晴れていくようだった。
「ううん、大丈夫……。でも、私……冬弥くんと佐藤くんが、私のせいで喧嘩になっちゃうのだけは、絶対に嫌だったから」
大切なふたりの友情を守りたかった――そんな咲夏の真っ直ぐな言葉を聞いて、冬弥はちらりと咲夏を盗み見る。
そして、包み込むような優しい笑みを浮かべた。
「喧嘩なんかしないよ、あいつとは。……でも」
冬弥はふっと視線を落とし、少しだけ声を低くした。
「……怜には、知られたくなかったな」
「え?」
ぽつりと零された呟きが上手く聞き取れず、咲夏は小首を傾げて聞き返す。
すると、冬弥は再び咲夏の瞳を真っ直ぐに射すように見つめてきた。
その瞳の奥には、息を呑むほどに切なくて、熱い独占欲がゆらゆらと灯っている。
「安達さんの良いところ……怜には気づいて欲しくなかった」
「……っ!」
喉の奥がぎゅっと縮まり、咲夏は言葉を失って顔を真っ赤に染め上げた。
それって、つまり――。
(冬弥くん……そんなこと言われたら、私、本当に自分の都合のいいように勘違いしちゃうよ……っ?)
心臓がバカみたいに、うるさいほどのビートを刻み始める。
完璧に着飾った鎧なんて、彼のその切なげな一言の前には何の意味もなさなかった。
恥ずかしさと愛おしさで頭がどうにかなりそうな中、咲夏はただただ真っ赤な顔をして俯くことしかできない。
ふと、ふたりの周囲を囲む青々とした竹林を見上げれば、通り雨が上がったおかげか、雲の隙間から差し込む光が、七色の綺麗な虹のアーチを空に描いていた。



