「……佐藤くんって、写真撮るの上手いね」
液晶の中の愛おしい寝顔からゆっくりと視線を上げ、咲夏は少し伏せ目がちに、照れたような笑みを浮かべた。
木漏れ日に照らされたピンクベージュの髪、そして外見の派手さとは裏腹な、どこまでも無防備で純真なその笑顔。至近距離でそれを向けられた怜は、思わず息を呑んで目を見開き、咄嗟に彼女の顔を真っ直ぐに見つめてしまう。
「……そうか?」
怜は動揺を隠すようにぶっきらぼうに呟き、慌てて視線を逸らした。いつもは冷徹で毒舌な彼の耳元が、ほんのりと赤く染まっている。
ぽつり、ぽつり。
そんなふたりの頭上、お団子屋さんの木造の屋根を叩くようにして、ゆっくりとパラパラと通り雨が降り出してきた。
にわかに白く霞んでいく竹林を眺めながら、咲夏はさらに言葉を紡ぐ。
「うん! 大切な人の思い出を、こんな素敵な形で残してるなんて凄い事だよ。私は……佐藤くんと一緒にこの写真を見られて、秘密を共有できて、本当に嬉しい。ありがとう」
咲夏はもう一度、怜の顔を覗き込んで真っ直ぐに笑いかけた。
冬弥への恋心を認めてもらい、その冬弥の過去を一緒に見守る仲間ができたという、咲夏なりの純粋な感謝だった。
けれど、そのひたむきで濁りのない笑顔を間近で浴びせられた怜は、ゆっくりと目を見開いたまま、時が止まったように完全にフリーズしてしまう。
「……っ」
何かを言いかけ、けれど言葉にならなかった。
怜の胸の奥で、カランと何かが崩れるような音が響く。
ただの『冬弥のステータスに群がる軽いギャル』のはずだった。
けれど、知れば知るほど、この彼女は危ういほどに素直で、なぜか無性に愛おしい。
怜は無意識のうちに手を伸ばしていた。
雨の湿気を含んだ風に揺れる、咲夏の耳元のピンクベージュの髪を、その長い指先でそっとすくい上げる。
そして、壊れ物を扱うかのような手つきで、ゆっくりと彼女の白い耳の後ろへとかけた。
「……っ、佐藤、くん……?」
不意の、あまりに優しすぎるスキンシップに、咲夏は驚いて身体を硬直させ、その瞳を見つめ返す。
通り雨の音が、ふたりの間の静寂を包み込んでいく。
――ガシッ!!!
まさにその瞬間だった。
咲夏の髪に触れていた怜の手首を、横から伸びてきた力強い腕が、衣服が擦れるほどの勢いで遮るようにしてガッシリと掴み取った。
「え……っ!?」
「……っ!」
咲夏と怜が同時に息を呑み、驚いて上を向く。
激しい雨の音の向こう、そこに立っていたのは――部活の練習中のように激しく肩を揺らし、息を切らせた冬弥の姿だった。
掴んだ怜の腕を、痛いほどの力で握りしめたままだった。



