「はぁ……。本当、お前ってやつは……」
恥じらって長椅子の上でジタバタと暴れる咲夏を横目に、怜は呆れ果てたようなため息を吐きながら、制服のズボンのポケットから自分のスマホを取り出した。
その動作を見た瞬間、咲夏は一瞬にして暴れるのをやめ、その瞳をキラキラとこれ以上ないほど輝かせた。
「ええっ!?うそ、やっぱりあるの!?冬弥くんのオフショ、本当に持ってるのっ!?」
お団子を持ったまま、大興奮で身を乗り出してはしゃぐ咲夏。
そんな彼女の姿を前にして、怜は(なんか……うちの実家で飼ってるポメラニアンのレオンにそっくりだな、こいつ……)と、内心で密かに毒気を抜かれていた。
見た目は清楚系ギャルなのに、中身はただひたすらに、冬弥のことで一喜一憂するウブな小動物のままだ。
「だいぶ前に教室で適当に撮ったのがあっただけ。別に今とそんなに変わんねーぞ」
怜は眉間にうっすらとシワを寄せ、面倒くさそうに画面をフリックしながら写真フォルダを遡っていく。
咲夏は一秒でも早くその画面が見たくて、無自覚のまま、怜のすぐ側へと身体をぴっとりと近寄せた。肩と肩が触れ合いそうなほどの至近距離。
不意に甘いコロンの香りがすぐ隣から漂ってきて、怜は「(いつも思うけど、こいつ距離近ぇつーの……)」と、心の中で少しだけ気まずそうに悪態をつきながらも、指を動かした。
「あ、あったわ。ほら」
「どこどこ……っ!?」
咲夏は液晶画面に吸い寄せられるように、釘付けになった。
画面に映し出されていたのは、放課後の誰もいない教室の窓際、自分の席で机に突っ伏して眠っている冬弥の姿だった。
薄手のカーテンから夕方のうららかな光が漏れ、彼の綺麗な睫毛のラインをなぞるようにかたどっている。
サラサラとした髪の毛が少しだけ乱れ、シャープで端正な輪郭が、夕暮れの光の中でどこまでも美しく浮かび上がっていた。
「っ……」
ドクン、と咲夏の心臓が大きく脈打った。
あの日。
高校の一般入試の帰り道に、校庭のベンチで仰向けになって、お腹の上に本を乗せて眠っていた、観月冬弥。
自分が一瞬で心を奪われ、この二年間ギャルデビューのために努力するすべての原動力となった、あの時のままの――息を呑むほどに綺麗な、彼の寝顔がそこにあった。
「綺麗……」
咲夏の口から、ぽつりと、掠れるような本当の心の声が零れ落ちる。
あまりの胸のときめきと愛おしさに耐えきれず、咲夏は両手を口元に持っていき、顔を真っ赤に染め上げて液晶の中の彼を愛おしそうに見つめた。
外見をどれだけ着飾っても、好きな人を想うその姿は、どこまでも純粋で透き通っている。
そんな咲夏のあまりにまっすぐな純情さを間近で突きつけられ、怜は何も言えなくなった。



