咲夏は踏切の前に立ち止まったまま、周囲に同じクラスの生徒がいないかどうか、首を左右にキョロキョロと激しく振って確認していた。
そんな咲夏の怪しすぎる動きを目の当たりにして、怜は深くため息をつき、頭をぽりぽりと掻く。
「なんだよ、そんな挙動不審になってさ。っていうか、お前は冬弥と一緒の班じゃねーのかよ?」
「しーっ!佐藤くん、声が大きいってば!ちょっと……佐藤くんにどうしてもお願いがあって来たの。学校じゃ、那智たちの目もあるし、なかなか話せないからさ」
咲夏が少し照れくさそうに笑うと、怜はさらに呆れ果てたような、じとーっとした生温かい視線を咲夏へと向けた。
「なんだよ。俺に聞けねーようなとんでもねぇ頼み事なら、今すぐお断りだぞ?」
「そんなとんでもなくないから!ほら、パンフレット見たら向こうにすっごく美味しそうなお団子屋さんがあるから、そこで話そ!ね?」
咲夏は「はい、移動!」と言わんばかりに、怜の制服の袖をぐいっと引っ張って歩き出した。
「おいおい! 引っ張るなって……。はぁ、マジで仕方ねぇなぁ」
文句を言いながらも、怜は咲夏の力に逆らうことなく、渋々と後ろを付いてきてくれる。
やっぱりこの男、口は悪いけれど本当はすごく優しい。
たどり着いたのは、竹林の景観に溶け込むような、赤い野点傘と縁側のような長椅子が置かれた、風情あるお団子屋さんだった。
和の雰囲気が漂う綺麗な小屋の前で、咲夏はさっそくみたらし団子を注文し、怜と並んで腰を下ろす。
香ばしいお団子を一口齧り、咲夏は意を決して、今日ここへ来た本当の目的を切り出した。
「実はね……佐藤くんが持ってる、冬弥くんのレアな写メとかあったら、見せてほしいなーなんて……。っ、きゃー!自分で言っててめちゃくちゃ恥ずかしいっ!」
言い終えた瞬間、凄まじい羞恥心が襲ってきて、咲夏は持っていたお団子を落とさないように気をつけながら、両手でパッと顔を覆い隠した。
長椅子の上で、恥ずかしさのあまり両足をバタバタとジタバタさせる。
外見はイケイケの白ギャルなのに、中身は完全に片思いに溺れるウブな少女のままだ。
そんな咲夏の盛大な一人大パニックを前にして、怜はポカンと口を開けたまま完全に硬直していた。
「……は?お前、マジで何言ってんの?」
怜は呆れたように眉間を揉みほぐすと、手に持っていたスマホの画面を咲夏の方へと向けた。
「いや、そんな遠回りなことしなくても、今日ここで冬弥と一緒に写メ撮ればいいだけだろうが。それくらいアイツ、言えば普通にツーショットだって応じるぞ」
「えええっ!?だ、だって、さすがにそんなの勇気いるよ!本人に内緒で盗撮みたいなことできないよ……っ」
咲夏は指の隙間から顔を覗かせ、モジモジしながら真っ赤な顔で抗議する。
そんな咲夏の斜め上すぎる純情な勘違いに対して、怜はこれ以上ないほど冷ややかな、けれどどこか楽しそうな視線で、咲夏を自販機の前のように見下ろした。
「おい。誰も盗撮しろなんて一言も言ってねーだろ、このおめでたギャル」
京都の柔らかな木漏れ日と、甘いお団子の香り。
冬弥の知らない場所で繰り広げられる、咲夏と怜の、不器用で最高に賑やかな『秘密の作戦会議』。
今日、冬弥と一緒に写真を撮る――そんな、ただそれだけの王道のフラグですら、今の咲夏にとっては富士山を登るほどの特大のハードルに思えてしまうのだった。



