清水寺を後にした咲夏たちのグループが続いてたどり着いたのは、どこまでも天高く伸び広がる、美しい緑の竹林に囲まれた神社だった。
紫式部の『源泉』、古えの聖地としても有名なその場所は、周囲を圧倒するような静謐な空気に満ちており、咲夏たちは一瞬でその美しさに目を奪われていた。
「すげぇ、しっかりした竹だよな。なんか、京都に来たって実感がめちゃくちゃ湧くわ」
すぐ隣で、冬弥もブレザーの襟を少し直しながら、感心したように青々とした竹林を見上げている。
神社の中に入り、敷地内だけはしばらくの間「自由行動」というアナウンスが流れたため、周囲のグループにも少しずつばらつきが見られ始めていた。
冬弥も新と一緒に、何やら気になるお堂があるのか、奥の鳥居を仲良くくぐっていった。
そんな中、咲夏はふと、奥の竹林へと続く小道の向こうに、聞き覚えのある少しだるそうな背中を見つけた。
(あ!佐藤くんだっ……!)
冬弥の親友である佐藤怜たちのグループが、ちょうど少し離れた場所を歩いていたのだ。
その姿を見つけた瞬間、咲夏の胸の奥に、屋上で知華たちと盛り上がった『冬弥のオフショット写メ・ゲット作戦』が鮮烈に蘇る。
最大の理解者となってくれた彼なら、きっと何かレアな情報を持っているはずだ。
「知華、那智!私、ちょっと佐藤くんに会ってくるね!」
「えっ、咲夏っち!?ちょっと、あんまり遅くならないよーにしてね!」
「一応、迷子になったらすぐに連絡しろよー?」
振り返りながら大急ぎで告げる咲夏に、知華が手を振り、那智が心配そうに声をかけてくれる。
「大丈夫、すぐ戻る!」
と二人に笑顔を返し、咲夏はピンクベージュの髪をなびかせながら、青緑色の竹林の小道をどんどん越えて走っていった。
カラン、カラン、カラン……。
神社の敷地の外れ、風情ある小さな踏切の警報音が遠くから聞こえてくる。
その踏切の手前、ひとりでスマホをいじりながら立ち止まっている怜の姿を、咲夏はついに発見した。
「佐藤くんっ!」
咲夏は息を切らせながらも、とびきりの笑顔を浮かべて真っ直ぐに彼へと話しかけた。
不意に名前を呼ばれた怜は、驚いたように肩を大きく跳ね上げ、スマホを握る手に力を込めて咲夏を固まった目で見つめる。
「うおっ!?なんだお前かよ!いきなり後ろから大声出すな、びっくりさせんなよ……」
怜は心底心臓に悪かったといった様子で、いつものように不機嫌そうに、けれどどこか呆れたような訝しげな視線を咲夏へと向けた。
京都の瑞々しい青竹の香りが、踏切を渡る風に乗ってふたりの間を吹き抜けていく。
冬弥への真っ直ぐな本気をこれから証明していくために。
咲夏の、旅先での少しだけ強引で、けれど最高に一途な『秘密のおねだり作戦』が、この踏切の前から始まろうとしていた。



