夏と冬が重なれば。【完結】



新幹線の中での甘すぎるトランプゲームの余韻を残したまま、一行を乗せた列車は無事に京都駅へと滑り込んだ。

 初夏の柔らかな風が吹き抜ける古都の街。

咲夏たちのグループが最初に向かったのは、京都を代表する名所・清水寺だった。

 修学旅行生や観光客で賑わう境内の奥。

そこには、数々の学園恋愛小説でもお馴染みの、有名な『恋占いの石』があった。

数メートル離れて対になる二つの守り石。

目をつぶって、もう一方の石まで無事にたどり着くことができれば、恋が成就するという大人気のパワースポットだ。

「安達さん、俺、ちょっと先生に呼ばれたから行ってくるわ。すぐ戻るから、みんなと先見てて!」

「あ、うん!いってらっしゃい!」

 学級委員長である冬弥が先生のところへ走っていき、グループから一瞬離れたその隙を、親友の知華が見逃すはずがなかった。

「咲夏っち!今が最大のチャンスだよ!ここで爽やか王子との恋を大成就させに行こーーーっ!」

「わ、わわっ、知華、引っ張らないでぇ!」

 知華は鼻息を荒くしてやる気満々に咲夏の腕を掴むと、ものすごい勢いで恋占いの石のスペースへと引っ張っていった。

 ふと後ろを振り返ると、那智と新の二人は近くのお守り売り場にすっかり捕まっている。

「新、これなんか渋くてよくね?『家内安全』って書いてあるけど」

「澤木さん、チョイスが渋すぎるって~!ギャルが修学旅行で買うお守りじゃないからそれ!」

 すっかり意気投合して楽しそうに笑い合っている那智と新の姿を横目に、咲夏は知華に連れられて、ついに一つ目の守り石の前へと立たされた。

「さぁ、咲夏っち。全神経を集中させて……レッツ、ゴー!」

「う、うん……。がんばるっ!」

 咲夏は大きく深呼吸をひとつして、そっと瞼を閉じた。 視界が真っ暗になり、周囲のざわめきが少し遠くなる。

ゆっくりと、一歩、また一歩と慎重に足を前に踏み出した。

(お願い……冬弥くんとの恋が、ちゃんと一歩前に進みますように……っ!)

 心の中で大好きな人の名前を何度も唱えながら、真っ直ぐに進む。

すると、数歩歩いたところで、コツンとローファーの足先に固い石の感触が当たった。

「……え?」

 咲夏が恐る恐る目を開けると、目の前にはもう一方の守り石が、ピタリと自分の足元に鎮座していた。

「やったぁ……!たどり着けたっ……!」

 咲夏はパッと目を見開いて、自分のことのように胸を躍らせて喜んだ。

横では知華が「咲夏っちぃぃいー! すごーーーいっ! やったぁぁ!」と、跳びはねて自分のことのように大はしゃぎしている。

咲夏は成就の証として、可愛らしいピンク色の『恋愛成就お守り』をそっと購入し、大切にカバンの中にしまい込んだ。

 そうして嬉しさを爆発させながら石段を下りていくと、ちょうど先生との用事を終えた冬弥が、こちらへ向かって歩いてくるのが見えた。

 冬弥は、見たこともないほど幸せそうに顔を輝かせている咲夏の姿を見つけると、ふっと目元を和らげて歩調を早める。

「あ、安達さん! おかえり。なんか凄く楽しそうだね!」

「あ、冬弥くん!お疲れ様!」

「いいなー、俺も一緒に行きたかったよ。……ねえ、なんか良いお守り買えた?」

 冬弥は屈託のない、太陽のような笑顔を咲夏へと向けた。
 その眩しすぎる至近距離の笑顔に、咲夏は心臓がドクンと跳ね上がるのを感じて、少しだけ顔を赤らめる。

「うん……!すごく、良いお守りが買えたよ♪」

 まさかたった今、自分のカバンの中に『観月冬弥との恋愛成就お守り』が大切に仕舞われただなんて、当の本人の冬弥には、口が裂けても絶対に言えない。

 けれど、カバンの中の小さなお守りの重みを感じるたびに、咲夏の胸の奥には、確かな勇気ときらきらとした初夏のときめきが、どこまでも熱く広がっていくのだった。