夏と冬が重なれば。【完結】



その日の昼休み。

教室ではとても話せない特大の秘密を抱えた三人は、いつもより少しだけスリルのある、屋上の隅の端っこへと集まっていた。

 フェンスに背を預け、咲夏がここ数日間に起こった出来事――放課後の居残り作業での冬弥との至近距離ハプニング、そして怜への真っ直ぐな宣戦布告までをすべて白状し終えると、案の定、二人の反応は爆発した。

「いや、ちょっと待って!久々に私たちのページが登場したからワクワクして聞いてたけどさ、進展しすぎてびっくりなんだけどっ!」

「知華! 『ページ』とか小説のメタい言葉を現実で言っちゃダメだからっ!」

 手をパタパタさせて大興奮する知華に、咲夏は慌てて「しーっ!」と口の前に人差し指を立てる。

 しかし、本当に焦るべき事態は咲夏のすぐ横で起きていた。

いつの間にかどこからか取り出してきた本物の竹刀を右肩に担ぎ、那智の瞳が野生の肉食獣のようにギラギラと輝いている。

「……なるほどな。怜のやつ、うちの咲夏をそこまで泣かせかけたわけだ。ちょっと今から裏に呼び出してヤッてくるわ」

「待って待って那智!決闘じゃないから!それとどこからその竹刀持ってきたのぉおお!?」

 咲夏は悲鳴を上げながら、慌てて那智のお腹周りを両腕でがっしりと掴んで必死に引き留める。

「もう、二人とも落ち着いてー!?」

 完璧な一軍ギャル3人組の、あまりに個性が大渋滞した大騒ぎ。

咲夏の必死の制止に、那智はようやくフンと鼻を鳴らして竹刀を下げた。

 知華はふぅと一息つくと、今度は真面目な恋バナモードの顔になって、人差し指を顎に当てる。

「いやぁ、でも結局のところさ、あの爽やか王子は誰が好きなんだろうね?咲夏の話を聞いてる限りだとめちゃくちゃ脈ありな気はするけどさぁ。王子、基本みんなに平等に優しいじゃん?そこが一番気になるところだよね!?」

「確かにな。これでただの人たらしだったら、相当タチ悪いぞ」

 那智の冷静な納得に、咲夏の胸の内にも少しだけ不安の雲が広がる。

「うーん……。噂とかではさ、他校の子とかからも時々告白されてるみたいだけど、全部断ってるみたいだし……。私も本当に、よく分かんないんだよねぇ」

 咲夏は手にしたお弁当の箸を止め、どこまでも高く広がる春の青空を見つめて小さく溜め息をついた。

すると、知華が獲物を見つけたかのように、ものすごい勢いで目を輝かせる。

「ちょっと!その超一級品のレアな噂、一体誰からの情報なのー!?」
「ん?……あぁ、佐藤くんだよ?」

 咲夏が何気なく笑って答えた瞬間、那智が「ははっ」と、くすくす呆れたような苦笑いを漏らした。

「あいつ、マジで極度のツンデレだな。あれだけ咲夏に偉そうなこと言っといて、ちゃっかり冬弥の情報横流ししてんじゃん」

「えっ、佐藤くん!?ねぇねぇ、それならさ!佐藤くんだったら、爽やか王子のオフショットの写メとかも大量に持ってるんじゃない!?咲夏、絶対にそれゲットしなよ! もうすぐ最初のビッグイベント、校外学習も控えてることだしさぁっ!」

 知華が鼻息を荒くして、咲夏の腕を掴んで興奮気味に揺さぶる。

5月に行われる校外学習は、お互いの私服姿が見られる恋の最大の大チャンスだ。

「えええっ!?さすがに、本人に内緒でそんなの貰うのは、色々とまずいでしょ……っ」

 冬弥の隠し撮り写真を裏ルートで手に入れるなんて。想像しただけで顔が真っ赤に染まっていく。

けれど、そんな初心な咲夏の後ろで、那智がニヤリと最高に不敵で男前な笑みを浮かべた。

「大丈夫だ。いざという時は、私が怜を別の件で脅して吐かせる」

「だから脅迫はダメだって!」

と咲夏が盛大にツッコミを入れ、屋上の隅っこはとんだ作戦会議で最後まで大いに盛り上がった。

 けれど、大切な冬弥を周りから守るために不器用な戦いを続けている怜の姿を思い出して、咲夏はふっと優しい笑みをこぼす。

「じゃあ……本当にダメ元で、今度、佐藤くんにこっそり聞いてみよっかな」

 耳たぶまでほんのりと赤くしながら、咲夏は手元に残ったお弁当の最後の一口をパクリと食べた。

 親友たちの熱烈なバックアップを受け、そして最大の壁だった怜すらも、いつの間にか不思議な『共犯者』のようになっていく。

 主人公安達咲夏の一途な恋の奇跡は、いよいよ高校生活最初の大きな舞台――きらめく初夏の『校外学習』へと、怒涛の勢いで突入しようとしていた。