夏と冬が重なれば。【完結】


チャイムに救われるようにして冬弥から逃げ切り、1時間目の授業を終えた直後のことだった。

 先生が教室を出ていくのとほぼ同時に、知華がものすごい勢いで咲夏の席へと飛び込んできた。

「ちょっとちょっと、咲夏ちん!朝からあの爽やか王子と同じタイミングで登校だなんて、羨ましすぎるじゃん! うちらの知らないところで、いつの間にそんなに進展してたわけ!?ほら、今まで立った『LOVEフラグ』を全部うちらに白状しなさーい!」

 知華は興奮を隠しきれない様子で、咲夏の細い肩にがばっと抱きついてブンブンと揺さぶる。

「ちょ、ちょっと、知華!声が大きいってば!周りのみんなに聞こえちゃうじゃない、落ち着いてっ!」

 咲夏は顔を真っ赤に染め上げながら、慌てて知華の口を手で押さえようとする。

外見は完璧な白ギャルでも、中身は周囲の目を気にしてしまう臆病な陰キャのままだ。

そこへ、お決まりのチュッパチャプスをまるで煙草のようにクールにくわえた那智も、ニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべてやってきた。

「そうそう。佐藤の件も含めてさ、今日はお前にかける『事情聴取』のメニューが山積みだからな。覚悟しとけよ、咲夏」

「な、那智までそんな……っ」

親友ふたりからの熱烈なダブルのツッコミに、咲夏は完全にキャパシティオーバーを起こしかけていた。

昨日、怜に本気の宣戦布告をして、今朝は冬弥から可愛い嫉妬をぶつけられたなんて、どこから話せばいいのか分からず頭のなかがパニックでぐるぐると回りだす。

(あーもう、本当にどうしよう……っ)

 困り果てた咲夏は、根負けしそうになりながら、助けを求めるように、あるいは無意識の引力に導かれるようにして、教室内をふっと見渡した。

 視線の先、教室の中央で友人たちと何気ない様子で談笑している冬弥の姿。

 その時だった。 ふいに、冬弥が何かを察したように、ちらりとこちらへ視線を動かした。

 賑やかな喧騒が響く教室の真ん中で、ふたりの視線が、遮るものなくバチッと真っ正面から噛み合う。

「っ……!」

 ドクン、と咲夏の心臓が、耳の奥まで響くほどの大きさで激しく跳ね上がった。

 冬弥の瞳は、朝の昇降口で見せたあの少し拗ねたような真剣な光をまだ帯びているようで、咲夏はあまりの気恥ずかしさと胸のドキドキに耐えきれず、咄嗟にパッと目を逸らしてしまった。

(う、嘘……!今、確実に目が合っちゃったよね……!?)

 逸らした視線の行き場に困りながら、咲夏は両手で熱を持った自分の頬をそっと包み込んだ。

 知華と那智がにやにやと色めき立つ声も、今の咲夏の耳にはほとんど入ってこなかった。 

誰にも言えない秘密を抱えた教室では、大好きな人と視線が交差するたびにシュワシュワと弾ける炭酸のようなときめきは、咲夏の不器用な恋を、もう誰にも止められない場所へと引きずり込んでいった。