すっかり気持ちが軽くなった咲夏の足取りは、いつになく弾んでいた。
翌日の朝。
昨日の放課後の興奮の余韻でなかなか寝付けなかったせいで、咲夏はいつもより少しだけ遅れて学校の校門へと滑り込んだ。
(あ、佐藤くんだ……!)
少し前、前方の通学路を、眠そうに大きな欠伸をしながら、だるそうに歩いている怜の背中を見つけた。
昨日あれだけ真っ直ぐにぶつかり合い、自分の本心を認めてもらったのだ。
中身はピュアな陰キャのままでも、今の咲夏にとって怜は、恐怖の対象から「冬弥を同じように大切に想う、ちょっと不器用で心強い仲間」へと変わっていた。
「――とぉっ!」
咲夏はギャルのテンションをまとい、るんるん気分の勢いのまま、怜の背後からその背中へと軽く飛びついた。
「うおっ!?なんだよ……っ!」
背後からの不意打ちの衝撃に、怜は驚いて声を上げ、慌てて振り返る。
完璧な白ギャルスタイルで、いたずらが成功した子供のように「ふふっ」と笑っている咲夏の顔を見た瞬間、怜はポカンと口を開けてその場でカチコチに固まってしまった。
「佐藤くん、おはよーっ!」
満面の笑みを弾けさせる咲夏。
まさか昨日あれほど泣きそうな顔で必死に突っかかってきた少女が、翌朝にはこんなにも距離感をゼロにして懐いてくるとは夢にも思っていなかったのだろう。
怜は気まずそうに顔を真っ赤に染め上げると、すぐに顔を背けて、いつものように「ちっ」と小さく舌打ちをした。
「……調子のんなよ、バカ。馴れ馴れしくすんな」
口から出るのは相変わらずの減らず口だったけれど、その薄い唇の端には、咲夏を認めたような優しい笑みが、ほんのりと、けれど確かに浮かんでいた。
「ふふ、やっぱり佐藤くんってツンデレだよねー!」
咲夏がさらにくすくすと笑いながら、二人が並んで歩き出そうとした、その時だった。
「――怜と、安達さん……?」
校門のすぐ近く、うららかな朝の光を浴びるすっかり葉桜となった木の下で、低めの声がぽつりと響いた。
そこには通学カバンを片手に持ち、足を止めて二人をじっと見つめている冬弥の姿があった。
いつもの太陽のような、眩しくて屈託のない笑顔はそこにはない。
冬弥は、昨日までまともに話したこともなかったはずの自分の親友と咲夏が、なぜか朝から凄まじく親密そうな距離感で笑い合っている様子に、ひどく驚き、そして――どこか少しだけ、複雑に胸をざわつかせているような、不思議な眼差しを二人へと向けていた。



