冬弥のどこまでも真剣な眼差しを前にして、咲夏はこれ以上、自分の嘘を突き通すことができなくなっていた。
胸を締め付ける、冬弥への隠しきれない想いと切なさ。咲夏はきゅっと自分の制服の袖を握りしめ、ゆっくりと重い口を開いた。
「あのね、実は……えっと……。友達と、喧嘩……みたいなのを、しちゃって。私、外見のせいで周りから誤解されることが多いから、どうしたらその子と仲直りできるのかなって……ずっと、悩んでて」
ぽつり、ぽつりと、言葉を絞り出す。
相手は知華でも那智でもなく、冬弥の親友の怜だ。
けれど、外見で誤解されて拒絶されたという点においては、何ひとつ嘘ではなかった。
少し遠回しだけど、これが今の咲夏の精一杯の告白だった。
「喧嘩……?」
冬弥は驚いたように目を丸くし、それから「うーん」と顎に手を当てて真剣に考え込んだ。
オレンジ色の夕暮れがふたりの影を教室の床に長く伸ばす中、冬弥は静かに言葉を紡ぐ。
「そっか……。それはずっと一人で抱えて、しんどかったよな。俺も偉そうにどうアドバイスしていいか分かんねーけど……。でもさ、俺が思う安達さんの良いところって、すごく素直なところだと思うんだ」
「え……?」
「だからさ、もし本当に仲直りしたい相手なら、もう一度ちゃんと腹を割って話し合って、お互いに全力でぶつかるしかないと思う」
冬弥はいつもの無邪気な笑顔ではなく、優しい眼差しで、真っ直ぐに咲夏を見つめて答えてくれた。
(冬弥くん、私のこと……そんな風に、見てくれてたんだ……)
外見を派手な白ギャルに変えてから、自分の本質なんて誰も見てくれないんじゃないかと不安だった。
それなのに、冬弥は自分の内面を、誰よりもちゃんと見ていてくれた。
その事実だけで、咲夏の胸の奥がじんわりと熱くなっていく。
「私って……そんなに、素直かな……?」
まだどこか自信なさげに問いかける咲夏に、冬弥はふっと目元を和らげて、いつもの太陽のような笑顔を弾けさせた。
「見てたら分かるよ。安達さんはさ、出会ったときからずっと素直で、友達思いで、すげー良い奴だと思うよ」
あの日、校庭のベンチで葉っぱを取ってあげた、黒髪で地味だった中学時代の自分。
そして今、完璧に着飾っている自分。
そのどちらの中身も、彼はしっかりと地続きで認めてくれている。
冬弥のその温かい言葉は、怜に言われた毒舌によって咲夏の心に深く刺さっていた冷たいトゲを、ふんわりと優しく和らげて溶かしていった。
「……うんっ!そっか、そうだよね!」
咲夏の瞳に、いつものきらきらとした輝きが戻る。
顔いっぱいに最高の笑顔を咲かせ、冬弥に向かって力強く頷いた。
「ありがとう、冬弥くん! 私……もう一回、ちゃんとぶつかってみる!」
冬弥がくれた特大の勇気を胸に、咲夏は冷たい鍵をかけていた心をもう一度、前を向いて開き直すのだった。



