あの中庭での一件があってから、咲夏は冬弥とどのような顔をして、どんな風に関わればいいのか、完全に分からなくなってしまっていた。
(……お前みたいな中身のねー軽い女、俺はマジで嫌いなんだわ)
怜からぶつけられた冷酷な言葉の数々が、今も胸の奥におりのように重く溜まっている。
彼の言う通り、冬弥への恋心をきっぱりと諦めてしまえば、この苦しい胸の詰まりは一気に流されて楽になれるのだろう。
そんなこと、頭では分かっている。
簡単なことのはずなのに、どうしても諦めることだけはできなかった。
それは他でもない、冬弥への気持ちが、咲夏が自分で思っている以上に大きく、深く育ってしまっているからだった。
一方の冬弥は、新学期早々、学級委員としての仕事で慌ただしい日々を送っていた。
時折、廊下で小山内美波さんと隣同士に並び、楽しそうに談笑しながら職員室へと向かう彼の後ろ姿を見かける。
その光景を目にするたび、咲夏の胸は締め付けられるように激しく痛んだ。
正統派で清楚な小山内さんと、ギャルで飾られた自分。
その埋められない差を見せつけられているようで、咲夏の心はどんどん自信を失っていく。
そんな風になんとなく元気がない咲夏の様子を、親友たちが放っておくはずはなかった。
とある日の昼休み、咲夏の席へとやってきた知華が、そのクルクルとした大きな瞳に心配の色を浮かべて覗き込んできた。
「咲夏ちん!最近なんか元気なくない?どうしたのん?」
「んー……ちょっと、いろいろ分からなくなっちゃって」
咲夏は力なく、消え入りそうな笑顔を返すのが精一杯だった。
すると、隣にいた那智がスマホから顔を上げ、鋭い観察眼を咲夏へと向ける。
「……お前、怜となんかあったろ。こないだ廊下ですれ違ったとき、妙に変な空気だったけど」
ギクリ、と咲夏の心臓が大きく跳ね上がった。
さすがは元ヤンの那智、他人の空気の変化に敏感すぎる。
けれど、本当のことを言ってしまえば、那智と怜の『幼なじみの関係』にまでヒビを入れてしまうかもしれない。
「ううん、違うの!ちょっと……高校デビューしたはいいけど、色々自信なくしちゃっただけだよ」
咲夏は慌てて手を振り、いつものように取り繕って笑ってみせた。
知華はそんな咲夏の言葉を信じ、優しく両手を握りしめてくれる。
「もう!そんなの咲夏ちんらしくないよ!完璧可愛いんだから自信持って、元気出して!」
「ありがとう、知華……」
二人にすべてを相談してしまえば、きっとこの胸の苦しさは少し軽くなるのだろう。
けれど、これはあくまで怜と自分、二人の間の問題だ。
大好きな冬弥のためにも、親友のためにも、今はただ一人で耐えるしかない。
咲夏は優しく励ましてくれる親友たちのぬくもりに感謝しながらも、心に冷たい鍵をかけ、一人きりで暗雲を抱え込み続けるのだった。
(……お前みたいな中身のねー軽い女、俺はマジで嫌いなんだわ)
怜からぶつけられた冷酷な言葉の数々が、今も胸の奥におりのように重く溜まっている。
彼の言う通り、冬弥への恋心をきっぱりと諦めてしまえば、この苦しい胸の詰まりは一気に流されて楽になれるのだろう。
そんなこと、頭では分かっている。
簡単なことのはずなのに、どうしても諦めることだけはできなかった。
それは他でもない、冬弥への気持ちが、咲夏が自分で思っている以上に大きく、深く育ってしまっているからだった。
一方の冬弥は、新学期早々、学級委員としての仕事で慌ただしい日々を送っていた。
時折、廊下で小山内美波さんと隣同士に並び、楽しそうに談笑しながら職員室へと向かう彼の後ろ姿を見かける。
その光景を目にするたび、咲夏の胸は締め付けられるように激しく痛んだ。
正統派で清楚な小山内さんと、ギャルで飾られた自分。
その埋められない差を見せつけられているようで、咲夏の心はどんどん自信を失っていく。
そんな風になんとなく元気がない咲夏の様子を、親友たちが放っておくはずはなかった。
とある日の昼休み、咲夏の席へとやってきた知華が、そのクルクルとした大きな瞳に心配の色を浮かべて覗き込んできた。
「咲夏ちん!最近なんか元気なくない?どうしたのん?」
「んー……ちょっと、いろいろ分からなくなっちゃって」
咲夏は力なく、消え入りそうな笑顔を返すのが精一杯だった。
すると、隣にいた那智がスマホから顔を上げ、鋭い観察眼を咲夏へと向ける。
「……お前、怜となんかあったろ。こないだ廊下ですれ違ったとき、妙に変な空気だったけど」
ギクリ、と咲夏の心臓が大きく跳ね上がった。
さすがは元ヤンの那智、他人の空気の変化に敏感すぎる。
けれど、本当のことを言ってしまえば、那智と怜の『幼なじみの関係』にまでヒビを入れてしまうかもしれない。
「ううん、違うの!ちょっと……高校デビューしたはいいけど、色々自信なくしちゃっただけだよ」
咲夏は慌てて手を振り、いつものように取り繕って笑ってみせた。
知華はそんな咲夏の言葉を信じ、優しく両手を握りしめてくれる。
「もう!そんなの咲夏ちんらしくないよ!完璧可愛いんだから自信持って、元気出して!」
「ありがとう、知華……」
二人にすべてを相談してしまえば、きっとこの胸の苦しさは少し軽くなるのだろう。
けれど、これはあくまで怜と自分、二人の間の問題だ。
大好きな冬弥のためにも、親友のためにも、今はただ一人で耐えるしかない。
咲夏は優しく励ましてくれる親友たちのぬくもりに感謝しながらも、心に冷たい鍵をかけ、一人きりで暗雲を抱え込み続けるのだった。



